第43話 《死者の迷宮》の外で
リッチが消滅した場所には、虹色に輝く宝玉が落ちていた。
「それが《迷宮主の証》ですか?」
「凄い魔力を感じますね。さすがAランクの迷宮といったところですか。」
「これが攻略の証になるのですよね?早く外に出て休みましょう。」
迷宮主を倒し、《迷宮主の証》を手に入れると迷宮に魔物は出現しなくなる。
普通の迷宮ならこれでお仕舞いなんだが、この迷宮の様に瘴気の濃い場所では時間が経てば、また魔物が生まれやがては新しい迷宮主が生まれる。
その前に瘴気を浄化して、迷宮を安全にする必要があるのだが
「…まあ、ついでにやっておくか」
俺は迷宮そのものに【結界】【拡大】【浄化】【増幅】を付与した。
魔術を打ち込んだ場所から、【結界】が【拡大】し、迷宮を包み込んだところで、【浄化】の力が【増幅】し瘴気を消し去った。
「…こんなところか。じゃあ外に出るか、…ってどうした?お前ら」
「いえ。…先生はいつも通りだなって、そう思っただけです」
「…はあっ。本来であれば、複数の神聖魔術師がいないと出来ないのに…」
「…あっという間でしたね。…この規模なら2ヶ月はかかるでしょうに…」
3人は俺に、呆れ半分、感心半分の表情を向けてくる
「……まあお前らも、純魔力を使えるようになれば、似たような事は出来るさ」
そう言いながら《迷宮主の証》を回収し、外へと向かうのであった。
しばらく歩いた後、無事に迷宮の外に出たのは、もうすぐ日が沈む時間だった。
「……先生のおかげで、かなり回復しましたけど、疲れたね」
「無茶をしたと思ったが、お師様に鍛えられたおかげでどうにかなったな」
「…私はもっと攻撃手段が欲しいですね。今のままでは私が遊んでしまいます」
それぞれ、感想や反省点を話し合っている。
今後の課題としては、カレンは一撃の威力を高めることだろう。
簡単なのは、武器に闘気や属性を纏わせるのが早い。
身体はいずれ成長するだろうから、焦らなくてもいい。
ルミラは決定力が不足している。
防御主体とはいえ、相手に脅威を感じさせなければ攻撃がカレンに集中する。
少なくとも、注意が引けるくらいの攻撃を用意すべきだろ。
そう言う意味では、フィリアも一緒だ。
今の3人は、決定的な攻撃をカレンしか持っていない。
今のままでは強敵相手では、今回のようにルミラとフィリアで相手の攻撃を防ぎ、その隙にカレンが大技を決めるぐらいしか勝つ方法がない。
(それぞれが、必殺技といえるものを1つは持つ必要があるな…)
そんな事を考えていると、上空から嫌な気配を感じた。
3人は、まだ気づいていない。
「お前達っ!!上から何か来るっ!警戒しろっ!!」
俺の声に反応して、3人は臨戦態勢を取る。
上空を見上げると、人間に似た姿で背中に蝙蝠の様な羽を生やした生き物がいた。
「……魔族。…あの感じは中位魔族か?」
そこにいたのは、見るからに軽薄そうな顔をした男の魔族だった。
「ん~?お前ら人間か?……その様子だと、ここのリッチ倒したのか?…マジで?
……ぷぷっ、ダッセー!!アイツ、人間なんかに倒されたのか。ぎゃはははっ!」
そいつは目に涙を溜め、腹を抱えて笑っていた。
3人は怪訝そうな顔をしているが、魔族の習性を知らなければ仕方ない。
基本、魔族は個人主義で強さが全てだ。一部の例外を除き魔王への忠誠心も薄い。
同族でさえ弱ければ虐げられる。他種族など、よほどでなければ気にも留めない。
あいつから見ればリッチが人間に負けるのは、獅子が猫に負けた感じなのだろう。
「~~はあー、笑った、笑った。こんなに笑ったのは何年ぶりだ?腹いて~。
アイツ『我はリッチ、死霊の王なるぞ。我を従えようなど思い上がるな』
なんて言ってさ~、生意気だから殺そうと思ったのに上に止められてさ~。
そしたらこうなってる訳だろ?…そりゃ笑うだろ、人間相手にこれじゃあ。
あんだけでかい口叩いておいて、マジうけるわ~」
魔族の男は、よほどリッチが嫌いだったのか、やたら饒舌で上機嫌だった。
やたら軽い感じに見えるが、油断は出来ない。
魔族は下位魔族なら、少々強い魔物程度に過ぎない。
しかし、中位魔族の中にはAランクの魔物を超えるものもいる。
話を聞く限り、コイツもそういう類なのだろう。
(コイツの上ってのは上位魔族か。…数は少ないけど、化け物揃いだからな)
……しかし見た目通り馬鹿だな、コイツ。余計な情報与えてどうすんだ?
今までの会話から、ここのリッチは魔族と直接の関係は無い。
コイツはリッチを倒せる力があり、上には多分上位魔族がいる。
本人の性格から考えて、ここには何らかの命令でやってきた。
この程度は推察できる。
(…そうなると、捕まえて情報を吐かせた方がいいか…)
そう判断した
「…なあ、上機嫌なとこ悪いが、お前もリッチと大差なさそうだよな?」
「……ああん。…今なんつった、人間?」
「お前ぐらい俺1人で倒せるって言ったんだ。いいからかかって来いよ」
俺はそう宣戦布告した。




