第42話 死霊の王
相手は、死霊の王と称されるリッチだ。
今までの相手とは強さの桁が違う。
「…我が眷属よ、我の呼びかけに応え、現れよっ!」
リッチが召喚を行うと、デュラハンを筆頭とした死霊達が出現した。
リッチの周りには魔方陣が出たままで、そこから次々死霊が召喚されている。
このままでは、一方的な展開になりかねない。
「…俺が周りを抑える。お前達はリッチに集中しろっ!!
俺はそう言うと、魔弾に【神聖】【浄化】【貫通】【圧縮】をかけ放った。
一気に周囲の魔物を減らし、リッチまでの道を作る。
そこに3人が飛び込み、リッチに迫るが
「…我をなめるなっ!愚か者どもめ!!」
手にした宝玉から強力な暗黒魔術【ダークフレイム】を放ち、3人を迎撃する。
大きな黒い炎が3人に襲い掛かろうとするが
「私が防ぐっ!【ファランクス】!!」
ルミラが叫び、攻勢防御魔術【ファランクス】を展開する。
【ファランクス】は幾重もの壁を前面に出し続け、相手の攻撃を押し切る魔術だ。
一瞬均衡したかに見えたが、ルミラが徐々に押し始めた。
そこに、フィリアが飛び込み
「【サンクチュアリ】!!」
神聖属性を持った結界を作る【サンクチュアリ】を、大きく展開する。
それにより一気にルミラが優勢になり、周囲の弱い魔物も一掃された。
「そこっ!【ホーリーランス】!!」
そこにカレンが飛び込み攻撃を仕掛ける。
【ホーリーランス】はリッチが出した防御魔術に防がれたが
「はあぁぁ!!【ソニックエッジ】!!」
追撃の【ソニックエッジ】が浅いながらもリッチに届き、ダメージを与える。
その間に俺は、【サンクチュアリ】でも消滅しなかった魔物を牽制しつつ、
(…【認識阻害】に【術式破壊】で、召喚の魔方陣を破壊する!)
俺が放った魔弾により、召喚の魔方陣が消滅する。
これで相手の増援は途絶えた。
俺は残った魔物が3人に向かわない様、注意しながら3人の戦いを見守った。
3対1の戦いになった事で、大勢は決した。
カレンが攻め、ルミラが防ぎ、フィリアが回復、補佐をする。
リッチの攻撃は届かず、逆に3人の連携は防ぎきれない。
ジリ貧に追い込まれたリッチは、捨て身の攻撃をしかけた。
「貴様らごとき下等生物に、むざむざやられてたまるかぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶと持っていた宝玉を叩きつけ粉々に砕いた。
すると自らを中心に闇が広がっていった。
危険を察し、カレンが距離を取りつつ、【ホーリーランス】を放つが、
「……!!かき消された!?そんな…」
「…まだだっ!【フレイムウォール】!!」
「…嫌な感じですね。【ヴェール】!【リーンフォース】!!」
カレンが放った【ホーリーランス】は闇に触れたとたんに消滅した。
それを見てルミラは、リッチの周りを【フレイムウォール】で取り囲んだ。
広がる闇に炎の壁が侵食されるのを見て、フィリアは【ヴェール】で属性防御を、
【リーンフォース】で物理防御を固める。
…炎が闇に食われた後そこにいたのは、暗く深い闇を纏ったリッチだった。
その姿は今まで以上に禍々しく、強烈なプレッシャーを放ってくる。
「……まさか貴様らごときに【死霊の王】にならねばならんとはな……」
闇の衣は、先ほど見せた絶対的な防御力で3人の攻撃を防いでいる。
同時に、暗黒魔術を強化する効果もあるのか、3人は防戦一方となっていた。
「くっ、硬い。…あれを打ち破るには相当な大技じゃないと…」
「…カレン!!私とフィリアで時間を作る!その間に…」
「…任せましたよ。攻撃は絶対に通しませんから…」
3人も覚悟を決め、勝負に出る様だ。
カレンが凄い集中力で、聖剣に闘気と魔力を注ぎこんでゆく。
そんなカレンを守るように、フィリアが【絶対領域】でより強固な結界を張る。
ルミラは【ファランクス】を展開するが、先ほどとは逆に徐々に押されてゆく。
「……っ!!負けるもんかぁぁぁぁ!!」
ルミラが【ファランクス】を重ね掛けし、一気に【死霊の王】までの道を作る。
「「カレン!!!」」
2人の声に反応して、カレンが【死霊の王】までの道を突っ走る。
「はああぁぁぁぁ!!!」
「……図に乗るなっ!!人間風情がっ!!」
【死霊の王】が向かってくるカレンに、極大の闇の玉を放つ。
それに対しカレンは、上段に構えた聖剣を真っ直ぐに振り下ろした。
宝玉に込められていた、闇の力の大半を注ぎ込まれたであろうその玉を
「……!!!馬鹿なっ!!我の最大魔術を!!」
「いっけぇぇぇぇぇ!!!【極光一閃】!!!」
聖剣に込めた闘気と魔力を一気に開放し、【死霊の王】ごとぶった切った。
「…馬鹿、な…我、が…滅びると、いうのか……」
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、」
少しずつ塵になってゆく【死霊の王】の前で、膝をつき息を切らせている。
カレンにしても全力で放った一撃は、消耗が大きかったのだろう。
残りの魔物を掃討し、俺は3人に【体力回復】【魔力回復】をかけておいた。
「はあっ、はあっ…?これは…」
「……体力も、魔力も回復してる…」
「…導師様?一体何をしたのですか?」
不思議がっている3人に、体力と魔力の自然回復量を上げた事を説明し、
「…3人とも、よくやった。見事な戦いぶりだったぞ」
そう言葉をかけると
「えへへっ、先生に褒められると照れますね」
「ですが、まだまだ力不足です。もっと強くならないと…」
「まあ反省は後にして、今日のところは依頼達成を喜びましょう」
こうして死者の迷宮の攻略は達成されたのだった。




