第41話 本格的に冒険を
こうしてミュシャの怒りをなんとか静めた俺達は
「…予想外の事態は冒険には付き物だ。気を取り直していくぞ」
「…予想外の方向性が、想像の斜め上過ぎますよ、先生…」
「…私の生涯で感じた最大の恐怖が、上書きされるとは思いませんでした…」
「…何といいますか…巻き込まれた皆様にはお詫びのしようもありませんね…」
正直、俺も同意見だが、出遅れたのも確かだ。早く行こう。
向かうべき《死者の迷宮》は、王国の北の端にある。
王国では魔王領がある北のほうが、強い魔物が出やすい。
《死者の迷宮》は無数の死霊が徘徊する難航不落の迷宮だ。
これまでも数々の冒険者達が挑んでは、その多くが帰らぬ人となっていた。
ミュシャの件もあり、俺達が到着したのは3日目の朝だった。
最終的な準備を終え、俺達は迷宮に入っていった。
「…随分と薄気味悪い場所ですね」
「…空気も澱んでいますし、長くいたい場所ではありませんね」
「迷宮の奥から、怨念めいた邪悪な気配を感じます…」
「…まあ、死霊系の迷宮の特徴だな。長くいると、精神的な疲労が溜まっていきやすいから、そういった面でも注意が必要だろうな」
まあ、低階層ではそんなに苦労はしないだろうが、奥に進む程、強力な魔物も出現するし、罠も悪辣なものも増えてくる。消耗を抑えなければ攻略は難しいだろう。
…まあそうは言っても、今回はそんなに心配はしていない。
なにしろ、《死者の迷宮》の魔物とは相性が抜群にいい。
むしろ罠のほうが危険度が高いぐらいだろう。
現に今も…
「はあああぁぁぁ!!」
カレンが3体のレイスを切り伏せていた。
物理攻撃が効かないレイスだが、カレンにとってはおかまいなしだ。
聖剣は、魔族や死霊に対する最強の武器だ。
ここの魔物にとっては、触れたら終わる、といったとこだろう。
「喰らえっ!【フレイムランス】!!」
【フレイムランス】が2体のグールを貫き滅ぼした。
ルミラの得意とする火炎魔術も死霊に有効な魔術だ。
死霊はただ倒しても、時間が経てば復活する。
それを防ぐ為には有効属性による攻撃が必須だ。
「……迷える魂にやすらぎを。【レクイエム】…」
フィリアの神聖魔術が、周囲のゴーストを一掃する。
有効属性であることに加え、フィリアの神聖魔術は並の威力じゃない。
死霊達はその余波だけでもダメージを喰らっている。
(このぐらいの相手じゃ、流石にやる事がないな。)
…俺がやったことは精々、逃げようとした魔物を魔弾で倒すぐらいだった。
大した苦労もなく、どんどんと先に進む俺達だったが、
(……あの感じだと魔物を呼び寄せる罠か。気づけばいいんだが…)
3人は気づいてないだろうが、床に罠の痕跡が見える。
ある意味、危険の少ない罠だ。気づくか見てみよう。
しかし残念ながら、カレンが床の魔方陣を踏んで罠が発動した。
予想通り、周囲に大量の魔物が召喚される。
「…!!嘘っ、何で魔物がこんなに!」
「!!カレン、足元だっ!魔方陣がある!」
「…囲まれています。皆、集まってくださいっ!」
3人は不意を突かれ、動揺も見られるが影響は最低限に抑える事が出来た。
ルミラが敵の接近を食い止めつつ、フィリアの魔術で敵を減らす。
カレンはフィリアが広げた空間に飛び込み、敵を薙ぎ払う。
まあ、罠の怖さが少しは解っただろう。
俺はカレンの反対方向に【神聖】【浄化】を付与した魔弾を放った。
「…という様に、罠で一気に形勢が変わることもある。注意するように」
「…先生、気づいてたのに止めませんでしたね」
「一歩間違えれば、被害が大きかったのに…」
「性格が悪いですよ。導師様…」
3人からは非難がとぶが、こういうのは経験しないと理解しない。
俺も通った道だ。恨むなら師匠を恨め。
「出てきた魔物は、3人にすれば大したことない相手だっただろう?
それでも、罠による動揺が重なれば危険なんだ。百の説教より一の経験だ。
事前に学んだ罠の知識を生かし、次からは引っかからないように」
「「「…はい…」」」
しっかり反省した様子の3人は、注意深く先へと進むのであった。
途中、結界を張って休憩を取りながら、順調に奥に進む。
するとたどり着いた最下層で、大きな扉が俺達を待っていた。
扉の奥からは、明らかにレベルの違う魔物の気配を感じる。
「…3人とも、気を引き締めろよ。この先に迷宮主がいるぞ」
俺の言葉に無言で頷く3人。焦りも気負いも無い様だ。
慎重に扉を開けた先では
「……ここまでたどり着いたか。…皆殺しにして我が僕に変えてやろう」
吸血鬼と並ぶ死霊の王、リッチが待ち受けていた。




