第39話 勇者の拝命式
フィリアの問題が片付き、約2ヶ月。
俺が勇者指南役代理人に就任して、めでたく1年が経とうとしていた。
フィリアはあれから、魔道具を使って適度な息抜きをしているようだ。
この2ヶ月、変わった様子は見受けられなかった。
それどころか、生来の性質の影響か、以前より活動的になっていた。
3人の成長も著しく、純魔力は得られていないがメキメキと実力を伸ばしていた。
今日の依頼である、グリフォンの討伐も指示を出すことも無く終わりそうだ。
最近は特に3人の役割がはっきりとしてきた。
カレンは完全な攻め手で、基本接近して敵を倒している。
ルミラは守り手として敵の攻撃を防ぎ、相手の動きを邪魔していた。
そしてフィリアは回復役兼支援役として2人を支えていた。
パーティーのバランスを考えれば、強力な魔術師がいたほうがいいのだが
「必要ありません。先生がいますし…」
「…?今更入れても、レベルが合わないと思いますよ、お師様…」
「…本気で入れるのでしたら、1年前に入れておくべきでしたね」
との事だった。
まあ、3人の言ってることはその通りなんだが…
俺をメンバー扱いしてるのはどうなんだ?
…いや、魔術師役は出来るし、連携も合わせられるけど…
そうこうしている内に、グリフォンの討伐が終わった。
Bランクの魔物だったけど、全く危なげが無かった。
(…そろそろAランクの依頼を、経験させる時期かな…)
討伐を終え俺を呼ぶ3人の姿に、そんな事を思うのだった。
依頼達成をギルドに報告し、ミュシャにAランクの依頼を確認する。
「…いまあるAランクの依頼は此方になります」
「…2件か。サイクロプスの討伐に、《死者の迷宮》の攻略、ね…」
「カインさん、どちらも危険な内容です。十分お気をつけ下さい」
「解ってる。…ミュシャ、この2件キープしてもいいか」
「はい、数日なら大丈夫です」
それを確認し、ギルドを出た。
3人に解散を告げた後、王城へと向かった。
そこで、クローディアに次の予定を話した。
「…という訳で、次はAランクの依頼に挑みたいんだ」
「…そうか。もうそんなに強くなったのだな、あの子達は…」
「ああ、俺から見ても十分Aランクの実力はあるよ」
「そうか、それで2件の依頼の、どちらを受けるつもりなんだ?」
「…《死者の迷宮》の攻略にしようと思う。今の3人にはそっちが必要だからな」
この1年は、主に戦闘力の向上に力を注いできた。
そろそろ、冒険者としての総合力を鍛えるべきだろう。
「…そうか。解った、十分に気をつけてくれ。くれぐれもよろしく頼む」
「ああ、解ってる。…それで、もう1つ相談なんだが…」
「…?何だ、言ってみてくれ」
「そろそろ、3人の変装を解こうと思う。正式に勇者を名乗らせたいんだ」
俺の見立てでは、あと半年から1年程で、純魔力を得る事が出来ると見ている。
そこから、純魔力の扱いに慣れるのに更に半年。
つまり、1年から1年半後には、魔王討伐を始められるという事だ。
それまでに実績と知名度を高めたい。魔王討伐は他国との連携が必須だからだ。
「純魔力を得てからじゃ遅すぎる。Aランクの魔物をこれから討伐していくのに、勇者の名前があれば国内外に宣伝できる。名前だけの勇者じゃ信用されない」
「…そういう意味では、今が最もいい時期か…」
「ああ、これからは他国に行く事も多くなるだろう。実績と知名度は必要だ」
「……《死者の迷宮》に向かうのは、何日後だ?」
「そうだな。…5日で準備を終わらせるつもりだ」
「解った。それまでに、陛下に正式に勇者を任命して頂く様に進言しておく」
こうしてクローディアとの話が終わり、本格的に勇者としての活動が始まった。
まずは4日後、勇者の拝命式が王城で行われる事となった。
「…カレン・フォウ・ベテルギウス。国王アインハルト・レア・アークトゥルスの名において命じる。そなたを正式に我が国の勇者と認め、聖剣を授ける」
「はっ、ありがたき幸せ!全身全霊をもって、勇者としての使命を果たします」
「頼んだぞ。そしてルミラ・テオ・シリウス並びにフィリア・イル・プロキオンの両名は、共に勇者を支え、その身に降りかかる困難を払いのけるよう努めよ」
「「はっ、この身に代えましても!!」」
「うむ。…そしてカインよ、この者らはまだ未熟。勇者指南役代理人として使命を果たせるよう、これからも教え導くのだ」
「はっ、非才の身なれど、勇者指南役代理人の名に恥じぬよう努める所存です」
「…そなた達はこの国の、そして世界の希望だ。世界の闇を払ってみせよ」
「「「「はっ!必ずや、そのお言葉果たしてみせます!!」」」」
こうして拝命式はおわったのだが…
「……なあ、何で俺はこんな場所で、こんな事してるんだ…」
俺は現在、王城のバルコニーで集まった国民に対してを振っている。
下に顔を向ければ、ざっと数千人は集まっている。
「何でって、国民に顔見せすると陛下が仰ったからでしょう?」
「ほら、お師様!ちゃんと笑顔でいてください!」
「ふふふっ。これで一蓮托生ですよ、導師様っ」
「…いや、俺は裏方だろ。何で俺まで…」
いまだに納得いかない俺に止めをさすように
「ふふっ、これで先生も正式にパーティーの一員ですねっ」
「…お師様と一緒に戦えるとは、夢のようだな!」
「…今まで以上に、よろしくお願いしますね、導師様」
……3人の言葉と笑顔が、俺にとっては死刑宣告のように感じられた。




