第38話 私だけの呼び方を
「ペンダントの飾りの部分を握り、変身後の姿を想像し使用者制限を唱える」
と、フィリアに魔道具の使い方の説明が終わった後
「それで、使用者制限はどうする?」
そう尋ねたところ、
「それでは、《リア》にして頂けますか?」
「了解。それじゃ【条件式】を付与するぞ」
こうしてフィリアにペンダントを渡した。
渡されたフィリアがペンダントを見て、不思議そうに尋ねた。
「あの、カイン様。もしかして、この赤い石は魔晶石ですか?」
「ああ、魔晶石を真銀で囲んでるんだよ。…石の質が悪そうなのが不満か?」
「い、いえっ。…ただこの石の質で、付与が複数かけられているのが不思議で…」
まあ、そうだろうな。この魔晶石は透明度が低い赤色で、質が悪そうに見える。
本来、魔晶石は透明度が高いほど、質が高く魔力量も多いとされている。
色は魔力量によって変わり、少ない方から順に黒、青、緑、黄、赤になる。
つまりこの石は、質はイマイチだが魔力量は多い石となるのだが…
「心配するな。それは表面を覆ってるだけだ。本体の石は特別製だ」
「…特別製、ですか?」
「ああ、実はな…」
こうしてフィリアに説明してやった。
俺は大量に買ったクズの魔晶石を、まず【精錬】で不純物を取り除き質を高めた。その後、大量に出来た小さい魔晶石を【結晶化】で1つに纏めた後、【圧縮】して今の大きさにする。最後に【加工】を施しペンダントの形にした。
本体の石は一目で特別製と解るので、偽装の為、質が低そうに見せている。
「…【圧縮】をかけたのは何故ですか?」
「以前作った時は【結晶化】したものを、今の大きさに【加工】したんだけど、
付与したとたん壊れたんだ。かといって石を大きくしすぎると身に着けづらい。
それで、【圧縮】することで問題解決したわけだ」
「…解りました。…魔晶石も、かけられた付与魔術も特別なのですね」
「ああ、だから知り合いに、魔道具をあまり作るなと言われてる」
「…でしょうね。私でもそう言いますよ…」
眉間を押さえながら、首を横に振りながら言う。
……揃って酷い事言うよな。人を何だと思ってるんだ、コイツら…
「まあ、王都に帰ったら使ってみろ。2人にも同じもの渡しとくから」
「……私だけでは無いのですね」
「…なんで不満げなんだよ?お前だけだと、一緒に出かけられないだろ?」
「…それは、そうですが…」
…人が気を利かせて3人分作ったのに。…何が気に入らなかったんだ?
「…はあ、もういいです。カイン様がそういう方なのは解っていましたし…」
「…本気で訳がわからん。…どうしろってんだよ?」
俺がそんなことを言うと、少し考えた後、悪戯っぽく笑い
「それでしたら、カイン様の事を、導師様とお呼びしてもいいですか?」
と、言ってきた。
「…何だそりゃ。呼び方変えるのに、何か意味があるのか?」
「……だって、2人だけずるいじゃないですか。特別な呼び方で…」
「特別って、先生と、お師様ってやつか?」
「そうです!ずっと私だけ仲間はずれみたいで…」
そう言って頬を膨らませ、不満をアピールしている。
…まあ、少し前のフィリアでは考えられない態度だ。
こういうのも息抜きになるのなら、呼び方ぐらいは好きにさせていいだろう。
「…解ったよ。好きに呼んでいい」
「……はいっ、導師様っ!」
そう言って、少し照れた様な微笑を、俺に返すのだった。
「思ったより長く話してたな。そろそろ戻るか?」
「ええ、それでは行きましょう。導師様」
広場まであと少しというところで、フィリアはいきなり腕を組んできた。
その顔は明らかに楽しんでいるのか、とてもニヤニヤしていた。
「…何をやってるんだ、お前は…」
「いえ、今日のお礼をと思いまして…嫌でしたか?」
一層強く腕に力を入れ、その豊満な胸を押し付けてくる。
…俺も男だ。嬉しくないわけは無い。けどこの状況を2人に見られるのはまずい。
「…いいから離せ。2人に見つかるとうるさいだろ」
「ふふっ、困ってる導師様を見るのも、なかなか楽しいですねっ」
(…コイツ、完全に調子に乗ってやがるな…)
どうするべきかと考えていたら、広場の方から2人が歩いてきた。
「ああ~!やっと見つけた、2人とも~!」
「…ううっ、私たちを置いて、どこかに行ってしまったのかと…」
…まずい。今の状況を見られたら、何言われるか解らない。
…そう思っていたが、2人の様子を見ると明らかにおかしい。
顔が赤く、ふらふらしている。……そして、酒臭い。
「…お前らっ!酒飲んだのかっ?」
「えへへ~、今日はめでたい宴だからって~、ちょっとだけって~」
「…ぐすっ、最初は、断っていたのですが、ずっと断るのも悪くて…」
…どうやらカレンは良い感じに酔って、ルミラは泣き上戸のようだ。
そうしていると、俺の腕を抱えているフィリアを見つけ
「…ああ~!フィリアだけずるい~!私もする~!!」
「…ううっ、私だけ仲間はずれはいやです。お師様ぁ~~~!!」
そう言ってカレンが反対の腕に、ルミラは俺の身体に抱きついてきた。
「…えへへ~、先生~。先生~!せんせいっ~~!!」
「…ぐすっ、置いていってはいやです、お師様ぁ~~!!」
「ふふふっ、楽しいですねっ、導師様っ!!」
3人に抱きつかれるという、混沌とした状況の中で
「…コイツらに酒飲ませたの誰だっ!!出てきやがれ~~!!!」
俺の叫びが空しく、夜空に木霊するのであった。




