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第36話 村での宴


礼拝を終えた後、俺は商店街の裏路地にある店に向かった。

そこは怪しげな雰囲気を醸し出す、小さな魔道具の店だった。


俺は顔見知りの店主に話しかける。


「よう、爺さん。邪魔するぞ」


そう言って見るからに偏屈そうながっちりとした体型の爺さんに声をかけると


「…お前か。…何のようだ、冷やかしならとっとと帰れ」

「…なんで俺の行く店の店主は、こういうのが多いかな…」


骨董店の店主(ばあさん)と似たような反応をされた俺は、ため息を吐きながら愚痴った。


まあ店主は偏屈だが、この店は穴場の名店で普通には無い物も取り扱っている。

今回は、普通の店にはまず置いてない物を求めてこの店にやって来た。


「なあ、爺さん。クズの魔晶石が欲しいんだけどあるか?」

「…前にも聞いたが、何に使う気だお前。…やばい事じゃ無いだろうな?」


この爺さん、酷い事言うな。…まあ魔晶石は魔力を溜め込む性質を持った石だ。

使い方次第では確かにやばい事も出来るが…


「…だから違うって。大体クズの魔晶石なんて、普通役に立たないだろ?」

「そんなものを買う奴だから言ってるんだ。…まあいい、量は?」

「…大袋一杯ってところだな。大丈夫か?」

「…ふん。こんなゴミ、金出して買うのはお前ぐらいだ。…少し待ってな」


そう言うと、店主は店の奥に引っ込んで行った。

…しばらくすると大きな袋を抱えて戻ってきた。


「ほら、確認しろ。…全く、年寄りに重いものを運ばせるな」


文句を言ってくる店主を尻目に、袋の中身を確認する。

袋の中には、純度が低く使い物にならない石や、一部欠けたりした割れたりもの、加工の際に出た欠片などが大量に詰め込まれていた。


「ああ、十分だ。爺さん、これ幾らだ?」

「…金貨1枚ってところだな。文句があるなら他に行け」

「文句なんかねーよ。あと、少し真銀(ミスリル)もくれ。全部でこんなもんか?」


そう言ってカウンターに金を置いた。

まともな魔晶石なら、この50倍はするだろうから気持ち多めに置いておく。


「…毎度あり。ほら真銀(ミスリル)だ。持って行け」

「おう、また来るな。爺さん」


カウンターのそばにあった小袋を渡す店主に別れを告げ、家に向かった。


(…戻ったら、【精錬】【結晶化】【圧縮】【加工】して付与か…)


俺は帰った後の作業を、頭の中で確認しつつ家に帰るのだった。



翌日は再び、国境周辺の村の依頼へと向かった。

前回は東から北に回ったので、今回は東から南、西、北へと回る予定だ。

順調にいけば20日程で依頼を終え、王都に帰る事が出来るだろう。


まずは2日で最初の村に着いた。

この村で被害を与えていた魔物はコボルトだった。

俺達はすぐに依頼をこなし、惜しまれつつも次の村を目指した。


そうしている内に、あっという間に最後の依頼になった

順調に依頼を進めた結果、予定より1日早く帰還出来そうだ。


最後の依頼はインプの発生により、森に入れないというものだった。

早速、森に向かいインプを退治した。

村に帰って、依頼達成を村長に報告した時には日が暮れていた。


「もうすぐ夜になる。感謝の宴も開きたいので、この村に泊まって欲しい」


村長からそう言って貰い、お言葉に甘える事にした。

質素ながらも、村人達の喜びが溢れた宴が広場で開かれ


「本当にありがとうございました。これでまた森に入れます」

「お姉ちゃんたち、つよいんだねー。かっこいいなー」

「…ありがとねえ。…ようやく森の恵みを得る事が出来るよ…」


と、酒を飲ませる訳にいかない3人は、村の女衆に囲まれていた。

その一方俺は


「ありがとなっ、兄ちゃん。ほんっとに助かったぜっ!」

「…わしがもう少し若ければ、あんな奴ら蹴散らしてやったんじゃがのう…」

「…それでアンタ、あの3人の内誰が本命だ?俺はもちろん…」


などと男連中に囲まれ、酒を飲んでいた。


この村はさっきまで森に入ることが出来なかった。

それでも、俺達に感謝を示したいと、酒まで出して喜んでくれている。

…いやまあ、単純に飲んで騒ぎたかっただけなのかもしれないが…


それでも村人達の表情が明るいのは、俺達にとっても嬉しいものだった。

村人達の馬鹿騒ぎを見ながら、俺も酒を飲み笑うのだった。


宴も進み、俺は酔い覚ましにその場から離れ、夜風にあたっていた。

すると後ろから、誰かが近づいてくる。

振り返るとそこには


「…フィリアか。…どうした?」

「カイン様が、こちらの方に移動されるのが見えましたので…」


そう言いながら、俺の隣に腰を下ろした。


「お前も、宴の熱気にあてられたか?」

「…そうかも知れません。でも、皆嬉しそうですね…」


広場の方に振り返りながら、フィリアは微笑んでいた。

…少なくともこの遠征中、フィリアに違和感は感じなかった。

だが、王都に帰れば、また再発するだろう。


「…フィリア。結構長く離れてたけど、もうすぐ王都に帰れるな」

「…そうですね。すごく久しぶりに感じます」


その言葉、その表情には僅かな陰りが見えた。


『…期待されるのは解るんだけど、ずっと完璧を求められるのはね…

段々と、本当の自分ってものが解らなくなってしまうのよ…』


かつて、フィリアと同じ違和感を持った人はそう言っていた。

結果、俺が協力することでその問題は解決したのだが…


(フィリアの場合もこれで解決してくれれば良いんだけどな…)


俺はポケットにあるものを確認しながら、フィリアに話しかけた。


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