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第34話 国境付近の村々


クローディアへ遠征の許可を貰いに行ったら


「…カイン殿、こういう事は事前に言って頂かないと困る…」


と苦い顔をされた。


「…悪い。急に決めたんでな。…でも王国民が困ってる訳だから…」


と頼み込むと


「解ってる。…本来は王国軍(こちら)が対処すべき話だからな…」


と渋々ながらも許可をくれた。


まあ本来、魔物による被害は王国軍が対処するものだ。しかし、王国軍は魔物だけでなく他国との争いにも備えなければならない。

その手の回らない部分を、冒険者で補っている訳だ。


クローディアから許可を貰った俺たちは、東の国境沿いに向かった。

まずは2日半かけて、1つ目の村に辿り着いた。

依頼を受けてもらえるのを、心待ちにしていたのだろう。

村人達から歓迎されつつ、村長から状況を確認する。


「…なるほど、山の近くの洞窟にゴブリンが住み着いたのか…」


ゴブリンはいわずと知れた弱小の魔物だ。倒すのに苦労はしない。

しかし、田畑を荒らし、家畜を盗み、女をさらう、小さな村には最悪の魔物だ。

早く倒して、村人達を安心させてあげなければと、3人がやる気になっている。


村長からおおよその場所を聞き、向かうと洞窟が見えた。

俺は【認識阻害】【拡散】【透過】【探査】を付与した魔弾で洞窟を探る。

洞窟内部の構造、ゴブリン達の位置がはっきりと解る。

俺は3人にそれを伝え、2手に別れる事にした。


「じゃあ、カレンとルミラは右に、俺とフィリアは左にいく」


「はい、それでは後で合流しましょう」

「早く終わらせましょう。苦しんでいる人もいますし…」

「…2人とも気をつけて下さいね。…ではまた後で」


「3人とも、ゴブリンは倒すだけでいい。後は俺が何とかする」


「「「はい!!」」」


こうして洞窟へと入っていった。


先へと進む俺とフィリアだが、ゴブリンとの戦闘は発生していない。

あるのは一方的な虐殺だ。俺は魔弾に【圧縮】【硬化】【貫通】【自動追尾】に【条件式】《対象:ゴブリン》を付与し進んでいた。

先に進めば、勝手に魔弾がゴブリンを倒し続けるという寸法だ。

正直、この魔弾を突っ込ませるだけで事足りるが、洞窟に入る理由がある。


「…まだ、生きてるからな。早くしないと…」


俺が最初に放った魔弾で、ゴブリン以外に人間がいる事が解った。

…多分、攫われた村の女性だろう。


「急ぎましょう、カイン様。…少しでも早く助けないと…」


フィリアは苦しげな表情で、俺の後に続く。

同性としてその女性の現状に、心を痛めているのだろう。


しばらく進んだところで、遂に女性の元まで辿り着いた。

周りのゴブリンは、魔弾によって全滅している。

女性は明らかに乱暴された様子で、目に光が無かった。

フィリアが治癒魔術をかける間、彼女が身に纏えるものを用意する。


…遅れてきた2人に、ゴブリンが全滅した事を伝え洞窟を出た。

3人で女性の世話をしている間に、俺は洞窟に向かい魔術を放った。

魔力糸に【増殖】【伸長】【強靭】を付与し【条件式】を加える。

《ゴブリンの死体にのみ粘着》させて、一気に巻き取った。


洞窟内にあった50以上の死体から、討伐部位を回収する。

そして村に戻り、村長に依頼の達成報告と討伐の証拠を見せた。

女性の事で痛ましい顔はしていたが、依頼達成に深い感謝を示していた。


是非、宴をと誘われたが、同じ様な村の依頼の事を話したら諦めてくれた。

何度もお礼を言われながら、俺達は次の村を目指す。


馬車の中で3人がさっきの女性の事を話している。


「…あの女性(ひと)、これから大丈夫かな…」

「…身体に後遺症が残ることは無いけど、心の方は…」

「…時間は掛かるでしょうが、生きてさえいればきっと…」


…魔物に襲われた女性が、以前と変わらず生きていくのは難しい。

身体も心も深く傷ついているし、周囲も同情や憐憫、蔑みの目を向けてくる。

それに耐えられなかった人も、決して珍しくはない。


「…3人とも、彼女の事を、良くある事だ、気にするなとは言わない。

でも、この先の村でもきっと、似たような事は起こっているはずだ。

辺境の村で、魔物が出るとはそういう事だ。…覚悟はしておけよ」


俺達の仕事は魔物を退治することだ。

しかし退治できても、村や住人達が負った傷が癒えるには時間が必要だ。

今の俺たちに出来るのは、傷を負った人達に寄り添うことじゃない。

少しでも早く、魔物を倒し被害を最小限に留めることだ。


「…頑張ります。アルト君とも約束しましたから…」

「今は、私たちにしか出来ない事をすべきですよね…」

「一人でも多く、悲しい思いをする人がいなくなる様頑張りましょう」


そうして俺達は2日で残り3つの村を回り、依頼を終え王都へと帰還した。


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