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第32話 お師様


戦いは終わったが、ルミラの右腕が取れたままだ。

フィリアが急いで回復しようとするが、止めさせた。


「…どうしてですかっ!早く治療しないと命に関わりますっ!!」

「…お前の治癒魔術じゃ傷は塞げても、流れた血は補充できないだろう?」

「…だったらどうしろというんですかっ!」

「…俺が治す。…奥義(とっておき)を見せてやるよ…」


そう言いながら、ルミラに【復元】を付与した。

そのとたん、落ちていた腕も、流れ出た血もなかった様に元に戻った。


「…先生、治癒魔術が使えたんですか?」

「…いや、上手く言えないが何か違う。…血の跡も無くなってるし…」

「…っ!…まさかっ、いや、でも…」


…フィリアはその可能性に至ったようだ。…まあ、種明かしといこう。


「【復元】は擬似的な時間回帰魔術だ。…使う為の条件が厳しいんだけどな」


「「「…嘘っ!?」」」


3人が驚いているが、それも当然だ。

時間に関する魔術は進めることは容易いが、戻すことは至難の業とされている。

それを俺がやったのだから、驚いても仕方ない。

…とにかく使う為の条件が無茶苦茶厳しいのと、消耗が大きい。

俺でもそうそう使えないから奥義(とっておき)なのだ。


「…先生は以前使える魔術は普通魔術、幻術、付与魔術だけと仰いましたよね?」


「ああ、俺が使えるのはそれだけだ」


「…だったら今の【復元】は何なのですか?時間回帰魔術だと…」


「だから、擬似的な時間回帰魔術である【復元】を付与したんだ」


「…仰る意味が解りません。どういう事なのですか?」


「…つまり、俺は色んな魔術を付与魔術という形でしか使えないんだよ」


…俺は3人に、俺の付与魔術についての説明をした。

要するに、俺は様々な魔術の原理、理屈は理解しているが使う素質が無い。

だから、それらの術式を付与するという形で擬似的に使っているのだ。


「…だったら先生は、理解していればどんな魔術も使えるんですか?」


「…理屈上はそうだな…」


「…無茶苦茶ですよ、それ…」


「…使う為には、原理や理屈、使う感覚のどちらか理解する必要があるけどな」


「…原理や理屈は解りますけど、使う感覚、ですか?」


「ああ、頭で理解してなくても、身体で理解してれば使えるんだよな」


…ただ、これには純魔力が絶対に必要だし、3人も純魔力を得る事が出来れば

今の魔術も想像力次第で、様々なアレンジが可能だと話した。


「まあ、そういう理由で魔力と頭を鍛えているわけだ。」


「…なるほど、ようやく理解しました」

「それであんなに色々な魔術が使えるのですね、納得しました」

「…それにしてもまさか時間回帰魔術とは…驚きましたね」


…まあ、いずれ話すつもりだったし、丁度いい機会だったろう。

これから先は、もっと様々な付与魔術を使っていくのだから…


「…さて、それじゃ今日の訓練は終わりだ。地上に戻るぞ」


「えっ、でもまだお昼前ですよ?」


「お前達は思ってる以上に消耗してるんだ。これ以上は駄目だ」


「い、いえっ!まだやれます。今、私絶好調なんですっ!!」


「…それは気が昂ぶってるからだ。自覚は無いけど精神的には疲れてるんだよ。」


「…カイン様の仰ることに従いましょう。本来貴女は大怪我をしたのですから…」



こうして俺たちは、昼頃には地上に戻った。

昼食を食べ、休憩した後少し早いが王都に向けて出発した。

順調に行けば、明日の昼過ぎには王都に着くだろう。


その日は途中の村の宿に宿泊することにした。

決して豪華ではないが、清潔できちんとした宿だった。

4人部屋と1人部屋を借り、当然俺が1人部屋だった。


夕食を終え、そろそろ寝ようかという時間に扉がノックされた。


「…誰だ。」

「あ、あの、ルミラです。…少しいいでしょうか?」

「…ああ、入っていいぞ。」

「そ、それでは、失礼します…」


そうしてルミラは部屋へ入ってきた。


「それで、こんな時間にどうした?」

「…カイン様の言ってた通りで、気が昂ぶってるのか、眠れなくて…」

「それで話し相手に…か?…まあいい。付き合ってやるよ」

「…ありがとうございます…」


ルミラをベッドに座らせ、俺は窓際に移動する。


「あ、あのっ、昨晩はありがとうございました。…カイン様が仰った事が今日、

少し解ったような気がするんです」

「…恐怖を感じる心を制御する、ってやつか。」

「はい。…昨日の私は恐怖に呑まれて、どうすればいいのか解らないままで、

…でも今日は戦えたんです。恐怖を感じていても…」

「そっか、…理由は解ってるか?」


俺がそう聞くと、ルミラは力強く頷いた。


「…はい。あの時感じた恐怖よりもっと怖い事がありました。…私が2人についていけなくなってしまう事、そして私のいない所で2人が死んでしまう事です」

「…それがお前にとって、一番怖いこと、か…」

「はい、…そう考えたら戦えました。その方がずっと怖いって…」


(…まあ、思ってたのとは違ったけど、結果オーライか。)


本来は俺との本気の戦闘に慣れれば、大抵の恐怖には勝てると思ったのだが…

まあいい。これでルミラは恐怖を乗り越えたんだ。これからもっと強くなる。


それからもう少し話して解散となった。

時間も遅くなったし、2人は寝ていると言うが目を覚ましたら面倒くさい。


部屋を出ようと、ベッドから立ち上がったルミラが躊躇いがちに言った。


「…あの、カイン様。…そ、その、これからはお師様と呼んで良いですか?」

「…どうした、急に…」

「あ、あの、実はずっとカレンが、先生って呼んでるのが羨ましくて…」

「…俺は魔術師だし、お前の師匠って感じじゃないよな…」

「い、良いんですっ!私にとってはお師様なんですからっ!!」


やたらと必死にそう言ってくるルミラに根負けし


「まあ、お前が良いなら好きに呼べよ…」


そう言うと、ルミラは嬉しそうに


「…はいっ!これからもよろしくお願いしますっ!!お師様っ!!」


と吹っ切れたような顔でそう言った。

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