第30話 荒療治
翌朝、目を覚ました2人と変わり、少し仮眠を取った後朝食を終えた。
その後、《赤の迷宮》の中層の広い空間に行き訓練を始める。
「それじゃ、準備が出来次第始めるぞ」
「…あの、先生?始めると言っても内容を聞いてないのですが…」
「…今日は俺との実戦だ」
「…実戦、ですか?…模擬戦ではなく?…」
「ああ、実戦だ。これからお前達と本気で戦う。気を抜くなよ?」
「…!!皆、注意して下さい!…カイン様、本気とはどの程度でしょうか?」
俺の様子がいつもと違うことを感じ取ったのだろう。3人が警戒を強めた。
「【認識阻害】は使わない。でも…」
3人から十分に距離を取り魔力糸を出す。
俺は、魔力糸に【切断】を付与し、迷宮の壁に叩き付けた。
魔力糸が触れた部分に、深い傷跡が刻まれた。
「…手足の1本ぐらいは覚悟しろよ」
そう言いながら殺気を飛ばす。
「「「っ………!」」」
初めて見せる俺の本気に、3人の表情が強張る。
特にルミラは、真っ青な顔で恐怖に呑まれかかっている。
「お前達の勝利条件は、ルミラが俺に一撃入れる事。…殺す気で来いよ?
でないと、大怪我程度じゃすまないぞ」
まずは、魔弾を数十発、【高速】【貫通】を付与し放つ。
幾つかには【結界破壊】【閃光】も付与しておく。
カレンは剣を振るい、魔弾を落としながら接近してくる。
【閃光】は予想の範囲内で発動する瞬間を読んで、倒れる様な前傾姿勢をとった。
低い姿勢のまま、更に接近を試みる。
フィリアはひたすら防御に専念している。【結界破壊】への対策も万全だ。
【シールド】を多重展開しつつ、斜めに角度をつける事で魔弾を逸らす。
【貫通】にも【結界破壊】にも対応した良い手だ。
多重展開することで【閃光】にも対処する形だ。
ルミラも防御していた。…正確には防御させられていた。
俺の攻撃を反射的に出した【シールド】で防いでいるが何枚も壊されている。
フィリアと違い、正面から受ける形で展開した為だ。
本来はフィリアと同じ様な形で防ぐか、カレンの様に前に出るのが正解だ。
特に勝利条件を考えれば、ルミラは前に出て来なければならないはずだ。
しかし、まだ恐怖に呑まれ動けずにいた。
俺は接近しようとするカレンを、魔力糸で薙ぎ払う様に腕を横に振る。
【切断】【伸長】を付与した魔力糸を、カレンは跳んで避ける。
しかし、【伸長】によって伸びた魔力糸が後ろの二人を襲う。
ルミラはまともに受け止めにいき、【シールド】を破壊され盾で防いだ。
フィリアは【エクスプロージョン】で魔力糸を爆破し防いでいた。
だがこれで、カレンと後ろの2人の間に距離が出来た。
まずはカレンを迎撃した後に、後ろの2人を倒す。
距離を縮めたカレンが切りかかってくる。
それに対し魔力壁に【防御】【電撃】【条件式】を付与する。
「っ!くうぅ!!」
魔力壁を切ろうとしたカレンが【電撃】の効果を喰らう。
更に《壊された場合、爆発する》【条件式】が発動する。
「ぐ……うっあぁぁぁ!!」
【電撃】と爆発によりダメージを喰らったカレンに追撃をかける。
カレンに【拘束】【魔力混乱】を付与し無力化する。
カレンを倒し2人に向かって歩いてゆく。
フィリアはまだ闘志を向けて来るが、ルミラはもう泣きそうだ。
…ここで勝つつもりなら、ルミラが俺の足止めに向かい、その間フィリアがカレンの回復を行うべきなのだが、ルミラが向かってくる様子は無い。
俺はそんなルミラに話しかける。
「…ルミラ、勝利条件を考えれば、お前が戦わなければ勝利はないぞ…」
そう言いながら【切断】を付与した魔力糸でルミラを攻撃する。
一方でフィリアには魔弾で牽制し近づかせない。
「っ!~~~~~~っ!!」
ルミラはただ必死に防いでいる。【シールド】で、盾で、鎧で。
そこには立ち向かう意思は見られない。
…そんな中途半端な防御じゃ、俺の攻撃は防ぎきれない。
魔力糸に幻術を重ね、防御の隙間を縫う。
そして、ルミラの右足が腿の半ばから切り落とされた。
「……え、…っ!…あ、ああっ!!あああぁぁぁぁ!!!」
片足を失い混乱しているルミラに話しかける。
「…ここまでなのか?…2人が戦っている間、お前は無事を祈るだけなのか?」
その言葉に反応し俺を見る。
涙を流しながら、怯えた瞳を向ける。
それは俺に対してなのか、2人と別れる事に対してなのか解らなかった。
そうしている内に
「…【エクスプロージョン】っ!!ルミラっ!【パワーウォール】を!!」
フィリアが俺に【エクスプロージョン】を放った。
それをかわす為、2人から距離を取る。
その間にルミラが【パワーウォール】を張り、フィリアが回復を行う。
「…しっかりして下さい。ルミラっ!まだ終わってませんよっ!!」
ルミラの足を回復させながら、フィリアはルミラを奮い立たせる。
「…ルミラ、カレンを回復させる時間を稼げますか?」
「…解らないよ…怖いの…自信がないよ…」
「…では、私が囮になります。…なんとかして一撃入れて下さいね。」
「っ!無茶だよっ!…フィリアじゃ無理だよ…」
弱気なルミラの手を握り、フィリアは言った。
「…私だって怖いですよ。…でも2人がいるから戦えるんです…」
そう言って震える手のままに、ルミラに笑顔を向けた。
立ち上がり俺に向かおうとするフィリア。それを
「…っ!待ってっっっ!!」
ルミラが立ち上がり、フィリアを止めた。
…涙を流し恐怖に震えるその身体で、それでも瞳に強い意思を込めていた。




