第27話 実戦終了
フォレストウルフ達がボスを中心に襲い掛かって来る。
先ほどと違い完全に統率の取れた動きだ。
動き出しをフィリアが【マッドプール】で妨害しようとしたが、一度見せた為警戒していた様で、ボスが吼えると素早く回避していた。
5頭のフォレストウルフがカレンを襲うが、あくまで牽制に留めている。
ルミラにはボスの他3頭がやはり牽制を仕掛けている。
そしてフィリアには7頭のフォレストウルフが襲い掛かっていた。
まずはフィリアから落としにかかった様だ。
「っ!このままじゃまずい、皆、集まって背中合わせに!」
「…くっ!そうは言っても…こいつら、鬱陶しい!!」
「っ!手数が多くてっ!そんな余裕が!…」
3人はそれぞれ分断された状態で戦わされていた。
なんとか集まって陣形を取ろうとするが、隙をみせれば一気に襲ってくるだろう。
このままでは各個撃破されるのがオチだ。
多少強引にでも状況を変えなければ全滅もありうるぞ。
3人も思い至ったのか、まずはルミラが強引に
「うおおぉぉぉぉぉ!!【フレイムウォール】!!」
フォレストウルフ達との間に炎の壁を出し、怯んだ隙にフィリアの元へ向かう。
続いてカレンが中級魔術【トルネード】で竜巻を出した。
フォレストウルフ達が巻き込まれまいと距離を取る間に、フィリアに合流する。
フィリアもそれを見て【ライト】で目くらましを仕掛け隙を作る。
怯んだ隙に【サンクチュアリ】で結界を張り2人の合流を待った。
フィリアの周りのフォレストウルフを倒しながら合流し陣形を組んだ。
合流は果たしたが、3人の消耗は思ったより大きい。
しかしフォレストウルフの方も2頭が倒され、何頭か傷ついている。
フォレストウルフがやや優勢だが、先ほどとは状況が違う。
ちゃんと連携が取れればそうそう遅れを取ることもないだろう。
ルミラを中心に置き、近寄ろうとする敵は【パワーウォール】で防ぐ。
その内側から魔術による遠距離攻撃を加えていく。
時折、相手の動きを阻害する魔術も使い、相手の足を奪っていく。
…一度分断された時はどうなるかと思ったが、大丈夫そうだ。
フォレストウルフは素早く、連携攻撃に長ける魔物だが弱点がある。
重い一撃を持たない事、そして遠距離攻撃を持たない事だ。
重い一撃を持たないから、強力な防御を突破出来ない。
遠距離攻撃を持たないから、近づかせなければ一方的に攻撃出来る。
こうなると攻撃をかわすしかなくなるのでその足を奪えばお仕舞いだ。
今の3人の戦い方は満点に近い。
…だけど、追い詰めすぎると不利を悟って逃げてしまう。
そのギリギリを突いてボスを仕留めないとマズイんだが…
「ボスも含めて後4匹!このまま行けば…」
「…っ!!ボスが逃げようとしてる!!私が突撃するから援護を!!」
「…っ!待って!!何かおかしいですっ!」
フィリアの言葉も一瞬遅く、ルミラはボスに向かって突撃した。
他のフォレストウルフを蹴散らしながらボスを追うルミラ。
その内の1頭を、正面で槍で突き刺し倒したが、一瞬視界が奪われる。
「…っ!!ルミラっ!!危ないっ!!逃げてっっっ!!」
カレンが必死に叫ぶが間に合わない。
ルミラの目の前には、逃げていたはずのボスがいた。
「…うそ、何で…」
一瞬、目の前の光景が理解できなかったルミラにボスの攻撃が直撃した。
いくら重い一撃を持たないといっても、無防備で喰らえば話は別だ。
ボスの一撃を喰らい、ルミラは意識が朦朧としている。
ボスが更にとどめの一撃を加えようとするが、2人では間に合わない。
「…しょうがない。後で説教だな…」
そう言いながら、用意していた【神速】【貫通】を付与した魔弾を放つ。
魔弾は、ルミラに牙を立てようとしたボスの頭に命中し絶命した。
ボスが倒され一瞬固まった残りの狼に魔弾を放つ。
こうしてフォレストウルフの群れは全滅し依頼は達成となった。
その後3人が回復したのを確認して、討伐証明部位を回収させた。
そうして馬車の所まで戻り、説教を始めた。
「…さて、初めての実戦が終わったわけだが、それぞれ感想を…」
そう言うと、カレンから話しはじめた。
「はっ、はいっ。探索に関しては問題無かったと思います。
…戦闘では、途中分断されたのと最後が駄目でした」
続けてフィリアが話す。
「…詳しく言えば、途中各個撃破される状況を作り出したこと、
最後にルミラを静止出来なかった事と、その後フォロー出来なかった事ですね」
最後にルミラが搾り出すような声で言った。
「…すみませんでした…」
「…ルミラ、俺は感想を言えと言ったんだ。すみませんは感想じゃない。」
「…全然駄目でした。最後、逃げられると思って、焦ってしまって…
…フィリアの静止も聞かないで…」
「…まあそうだな。今回、探索は問題ない。その後も場所を移動したのも良い。
戦闘も最初は無難だったし、途中ボスが出てきてからが要反省だな。
事前の情報を生かせば、ルミラを中心とした防御からの遠距離攻撃がもっと早くに出来ていたはずだ。あの攻撃は満点に近かった。そして…」
一度言葉を止めて、ルミラを見る。
「…最後にボスを追いかけた事自体は間違いじゃない。逃がしたら厄介だからな。
…問題はそれが誘いだと見抜けなかった事、そして自分の役割を忘れた事だ。
…それと2人も、ルミラを静止できなかった事、その後の展開に対応できなかった事は反省する様に」
「「「はい…」」」
こうして初の実戦は苦い思いをする事となった。
…まあ、失敗から学ぶ事も多い。最初に躓いたのも良い経験だろう。
俺はそう考えていたのだが、この後更なる問題が発生するのだった。




