第21話 腕輪
帽子を買って服屋を出た後、俺達は商店街を目指した。
帽子を深めに被っている為、先ほどよりカレンに視線は集まらなかった。
後ろを振り返り、少し後ろを歩くカレンを見る。
目が合うと少し恥ずかしそうに微笑んだ。
(…喜んだ顔が見たい、と思わされるのはこいつの人柄なんだろうな…)
そんな事を思いながら、少しだけゆっくりと歩いた。
商店街に辿り着くと、そこには様々な店が軒を連ねていた。
たくさんの人で溢れかえって、とても活気に満ち溢れていた
「す、凄いですね。こんなにも色々なお店があるなんて…」
「ああ、本当にいろんな店があって面白いぞ、例えば…」
そう言いながら、カレンを案内して行く。
着いたのは、あまり流行ってなさそうな一軒の骨董屋だった。
「…ここ、ですか?」
「ああ、古くて珍しい物を取り扱っていて、掘り出し物もあるぞ」
店に入ると、見るからに偏屈そうな老婆が視線を向けた。
「…フン、なんだいアンタか。…はっ、女連れとはいいご身分だね…」
「…相変わらずだな、婆さん。数少ない常連には優しくしろよな…」
「…優しくされたきゃ他の店に行きな。うちにはそんなサービスは無いね…」
「あ、あの、カインさん?」
「…ああ、気にしなくて良いぞ。あの婆さんの挨拶みたいなもんだからな」
本当に商売する気があるのか疑う言い草だが、品揃えは以外に良い。
胡散臭い品物の中に、意外な逸品があったりするのだ。
「婆さん、勝手に見させて貰うぞ」
「…手荒に扱うんじゃないよ。壊したら弁償だからね…」
「はいよ。…レン、許可が出たぞ。気になるものがあれば言えよ」
「は、はい、解りました…」
こうして店内を回っていたら、面白いものが結構ある。
明らかな偽物から、珍品、素人には解らない精巧な複製品まで様々だ。
そんな中カレンが、ある品に目を惹かれた。
「…これ…凄く綺麗…」
そう言って目を輝かせたのは、金と銀で出来た木の枝が絡み合い一つになっている精巧なつくりの腕輪だった。
素人目にもなかなかの逸品と解る物だが、値段は意外に高くなかった。
「…なあ、婆さん。この腕輪いわくつきとかじゃ無いよな?」
「…失礼な事言うんじゃないよ。…そりゃ、買う人間が限られるんだよ…」
「限られるって…俺達が買ってもいいのか?」
「…買うってんなら売ってやるけど…意味解ってんのかい?」
「…意味って何だよ?…ともかく買っても問題ないんだな?」
「…ああ、ただし買った腕輪をお互いに贈るんだ。それ以外じゃ売らないよ」
「…何だよ、それ。2つ買わなきゃ駄目なら、俺が2つ買ってもいいだろ?」
「…駄目だね、自分で買ったのを贈るんだ。…返品も認めないよ」
そんな婆さんの言い草に頭を悩ませていたら、カレンが
「…あの、カインさん。その腕輪、私に贈らせて下さい」
と言ってきた。
…意外と高くないと言っても、それなりの値段はする。
カレンが買うには少々負担なのだが
「…今日の記念にしたいんです。…お願いします」
などと言われれば断れるはずも無く、俺達は腕輪を買い、互いに贈りあった。
お互いに贈られた腕輪を身に着け、店を出ようとした時
「…その枝は連理の枝って言って、絡み合い離れない事から夫婦を表すんだよ…」
そんなとんでもない事実を婆さんがニヤつきながらぶちまけた。
カレンの顔を見ると、予想通り真っ赤になっていたのだが、俺もヤバイ。
今日のカレンは、元々美少女と解っていたが、妙に可愛く見える。
その恥ずかしげな表情や、はにかむ仕草が一人の女性として意識させる。
(…待て、落ち着け俺。…相手は13歳の子供だぞ…教え子だぞ…)
顔が熱くなるのを感じながら、必死に心を落ち着けるのだった。
…店から少し離れた場所で、本日2回目の謝罪を行う。
「…すまん、あんな店に連れて行った俺が悪かった…」
「い、いえ、あの腕輪を見つけたのは私ですから…」
「…いや、婆さんの物言いから察するべきだったし、お互いに贈る時点でな…」
「とっ、とにかくっ!私は気にしてませんからっ!!平気ですっ。
…身に着けるのは駄目ですけど、部屋で大事に飾らせて頂きますから…」
などと、13歳の少女に気を遣わせてしまった。
…その後、いろんな店を見て回ったが、カレンは楽しそうに笑っていた。
…こんな楽しい時間を、自ら終わらせなければならないのは心苦しい。
それでも今日、ここに来た一番の理由を忘れる訳にはいかない。
「…なあ、レン。今日は楽しかったか?」
「はいっ、とっても。私の知らなかった初めての場所、様々な事、いろんな人達に出会う事が出来て本当に楽しかったです」
…このまま帰れば今日の事は、カレンにとって素敵な思い出で終わるのだろう。
…それでも明日、きっとカレンはまた悩み、苦しんだ顔を見せる。
だからこそ、今日終わらせる。
…たとえ、カレンに恨まれたとしても、嫌われるとしても。
「…レン、最後に行きたい場所があるんだ…」
俺はそう言って、カレンをその場所へ連れて行くのだった。




