第214話 グレモリーとリオン
残り5話です。
女性の魔族はそう宣言すると空を飛び、天井も高い大広間で俺達の上を取った。
そして男性の方の魔族は、それに合わせる形で地上から俺達に襲いかかって上手く俺達の注意を分散していた。
女性の方はやたら露出の多い衣装だが、あれは淫魔などが使う手法で相手の意識をそこに集めて、その隙を突いて精神に干渉するというものだ。
それが解っているなら引っかかる訳が無いと思うだろうが、それが多分【変身】の効果なのだろう。
女性の外見も相まって、半強制的に女性に意識が持っていかれそうになっていた。
しかも解りやすく、効果があるのは男性限定のようだった。
一方男性の方はどこか僧侶にも似た格好で、素手で戦うスタイルはまるでガープのようで、全身に赤い闘気を纏う姿はまるでベリアルのようだった。
こちらの【変身】は身体強化系のようだが、ガープとベリアルの特徴を兼ね備えるような相手はそれだけでも十分に脅威だ。
辛うじて救いがあるのならガープ程の格闘センスではなくベリアル程の圧倒的な闘気の性質でもなく、どちらの特徴も両者には及ばない点だろう。
しかし2人の連携は見事なもので、お互いを理解していなければ到底出来ないものであるのは容易に理解出来た。
正直言って戦闘能力もそうだが、こういう相手を信頼している姿を見せる相手とはあまり戦いたくはない。
しかし俺達が魔王を倒しに来ている以上、どうしても戦闘は避けられないだろう。
まずはどちらにしても、女性の方の精神干渉をどうにかしないといけない。
集中出来ない状態では不覚を取りかねないし、何より女性に効果がないので俺達が魔族の女性に目を奪われているようにカレン達には映るだろう。
さっきから不機嫌そうな雰囲気と冷たい視線が、俺に向けられているのが解る。
とりあえず強引に集中して地面に【結界】【拡大】【精神強化】を撃ち込み女性の精神干渉に対抗する。
女性は俺達の様子を見て精神干渉が破られたのを察したようで、苦い表情を俺達に向けていた。
このまま頭上を取られても厄介なので、俺は魔弾を数発上に向かって放った。
女性がそれをかわしきって油断したところに、【認識阻害】を付与した魔弾を女性の近くで【爆発】させた。
「きゃあああぁぁぁぁ!!!」
悲鳴を上げながら地面に墜ちてゆく女性の身体を、男性の方が素早く動き墜ちる前に受け止めた。
「……大丈夫か、グレモリー?見たところ大きな怪我は無い様だが」
「ええ、不意を突かれただけだから平気です。威力も大した事無いですから」
「そうか、だったらまだ戦えるな。魔王様の元へ行かす訳にはいかぬからな」
「……そうですね、私達は最後まであの方についてゆくって決めたんですから」
そう言って女性を降ろし2人がこちらを向く。
しかし俺には今の会話の中に聞き逃せないものがあった。
「ちょっと待った。そっちの女の魔族、グレモリーって名前なのか?」
「……お前達に名乗る必要はありませんが、もしそうならどうだというのです?」
「……じゃあそっちの男の魔族はダンタリオン、いやリオンって呼ぶべきか?」
「……なぜ貴様がオレの名前を、リオンという呼び名を知っている?」
俺は戦闘の意思が無い事を示す為、両手を上げて相手に掌を見せる。
俺の突然の行動に敵も味方も戸惑っていたが
「俺の師匠があんた達をそう呼んでいた。自分の幼馴染で親友だってな」
俺のその言葉に場が静寂に包まれた。
しかし一瞬後にグレモリーの激しい怒りの言葉でそれは破られた。
「ふざけないで下さいっ!!それを、その言葉を言って良いのはこの世界にたった1人しかいないんです!!」
「……知ってるよ。詳しくは話して貰えなかったけど、あんた達の事を話してる時の師匠はとても優しい目をしてたから……」
俺は2人から目を逸らさず話を続けてゆく。
「俺が師匠に拾われたのは24年前だ。それから10年ほど師匠とは一緒に暮らしていた。2人の事を聞いたのは7年目に入った時に、間違って家宝の短剣を盗んでこれは2人に怒られるなってぼやいてた時だ」
2人が『アレか』という顔で俺を見る。
俺の言葉に心当たりがあったのだろう。
まあ、家宝を持ち出したなら騒ぎにならないはずは無いからな。
「今から魔力壁に師匠の姿を映し出す。それがあんた達の親友の姿だったら、俺と話をしてくれないか?」
俺は2人が頷いたのを確認して魔力壁を出し、師匠の姿を映し出した。
それは俺の思い出にある最後の師匠の姿で、俺の勝利を祝ってくれた時の嬉しそうに笑っている時のものだった。
それを見た2人は
「……本当にあの方の弟子なのですね。こんな嬉しそうな表情私達以外に見せた事なんて無かったのに」
「……ああ、この姿を見せられてはもう戦う理由がない。お前の事をどれだけ大事に思っていたのか良くわかるからな」
少し涙ぐみながら【変身】を解いてくれた。
……良かった。俺も師匠の親友と戦いたくなかったし、何より2人から今の師匠の話を聞けるのは本当にありがたい。
「……ありがとう。それじゃ師匠の事を聞いてもいいかな?」
こうして俺は2人から師匠の話を聞かせて貰う事となったのだった。




