第210話 告白
残り9話です。
流石に腹が減って仕方ないので、ベッドでも食べられる果物を持ってきて貰った。
それを食べながら待っていると、皆がテントに集まりだした。
「カイン!!良かった、目を覚ましたのね」
最初に息を切らせながらやってきたのはシャルだった。
その後《クラウ・ソラス》のメンバーが、《剣聖》にオーベロン、ドウェルグと次々に集まり皆が俺の無事を喜んでくれた。
来てくれた皆に礼を言いながら、全員が集まったところで本題に入る。
「まだ早い時間なのに悪かったな。ご覧の通りなんとか生き残れたよ」
「……まさかあの化け物に勝つとはな。余の【光帝剣】でも押し切れなかった時はあやつを倒す姿が想像出来なかったぞ」
「大丈夫、俺も出来なかったから。けど倒せたのは偶然でもあり必然でもあったんだよな」
「どういう意味だ?そもそも、お前はどうやってあやつを倒したのだ?」
「ああ、そこら辺をこれから説明するよ。まず俺達以外が気を失ってから……」
そして俺が殿を務めての撤退戦に入りそこにカレンが戻って来た事、そしてカレンが致命傷を負わされ絶体絶命になった事、そこで俺がまるで師匠の声に導かれる様に【暗くて狭い僕だけの世界】を使ってベリアルを倒した事を話した。
「……って感じだな。まず間違いなく【暗くて狭い僕だけの世界】が無けりゃ勝つ事は出来なかっただろうな」
「カイン君?その【暗くて狭い僕だけの世界】はどういうものなんだい?」
ヴィルさんの学者としての血が騒いだみたいで質問してきた。
「え~と、要は【空間断絶】でこの世界から独立した世界を作るんです。その中はこの世界の法則が基準になっていますが、純魔力を使っての法則の書き換えが可能です。書き換えられた結果は【暗くて狭い僕だけの世界】を解除してもすでに確定したものなのでこの世界でも有効になります。俺なりの解釈ですがこれで合ってると思いますよ」
説明が終わった後、皆の表情がやや引きつっていた。
まあ、俺自身でさえ同じ思いなのだからこれはしょうがない。
「……それは、なんと言うか、とんでもない魔術だねえ」
「明らかに人間が使って良いレベルのものじゃ無いですけどね。それに、多分これ使えるのは俺しかいないと思いますよ」
俺は続けてこの魔術の欠点も説明した。
まず【空間断絶】が使えないといけない事、使用時の魔力消費がとんでもない事、そして独立した世界を造るのに強固なイメージが必要な事を説明すると
「……ああ、確かにそれはカイン君以外には使えそうもないね」
と、ヴィルさんがしみじみとそう言っていた。
まずは【空間断絶】だが非常に難易度が高く、比較的魔術の再現が得意な俺でさえ使えるようになるまでに8年くらい掛かっている。
魔力量に関しては俺は並程度なのでその点では他の皆でも問題ないのだが、最後の強固なイメージはまず俺以外には出来ないだろう。
何故ならイメージに僅かな綻びがあれば、瞬く間に世界からの干渉を受けるからだ。
例えば目を閉じてさっきまで見た風景をイメージしろといったら、出来ない人間はまずいないだろう。
しかしその風景を1月後に、あるいは1年後にイメージしろといったら出来る人間はこれまたいないだろう。
しかしそれが出来て初めてこの魔術は成立するのだ。
俺が【暗くて狭い僕だけの世界】を使えるのは、あの日の光景を俺が一生忘れる事が出来ないからだ。
俺の弱さが、臆病さが、無力さが、死にたくなるほどの強い後悔があるからあの日見た光景の1つ1つが俺の魂に刻まれ、忘れるなんて事は絶対にありえなかった。
本当に俺の人生は皮肉なものだ。
俺が弱かったからこそ純魔力に辿り着く事が出来て、ずっと後悔しているからこそ【暗くて狭い僕だけの世界】を使う事が出来た。
あの絶望の日があったからこそ、今自分はこうして生きていられるのだ。
「それにしても【空間断絶】なんて良く使えるわよね。誰かに教わったの?」
俺の話を聞いてシャルが質問してきた。
この中で師匠の事を知っているのはシャルを除いた《クラウ・ソラス》のメンバーとカレン達3人だけだ。
どちらにせよ今後の事を考えれば全員が知っておいた方が良いだろう。
「……ああ、俺の師匠に教わった。多分まだ俺より強いはずだぞ」
「……嘘でしょ?本当にそうなら探して戦いに参加して貰うべきじゃないの?」
「それは無理だ。14年前に別れたっきりだし、何より師匠は魔族だからな」
俺の言葉を聞いて知ってる連中は溜息を吐いていたが、知らない連中は俺の言葉が冗談なのかどうか確かめるような視線を向けてきた。
「マジなんだな。まあ、ある意味てめえの出鱈目さの理由も解ったけどな」
「……貴様の事だ、碌でもない相手なら師匠などとは決して呼ばぬだろう」
「14年前に別れたってのはどういう事だ?おめえらに何があった?」
「……本当なのね。カインならこんな時、からかうような真似しないものね」
正直もっと非難されると思っていた。
けれどこいつらは俺と言う人間を信じて、師匠を魔族だからと一方的に否定しないでいてくれた。
だから俺は俺と師匠の事を話す事にした。
きっとこいつらなら俺の話を信じてくれると思えたから……




