第200話 屍を越えて
残り9話です。
その後俺は、白い魔弾が消えるまでにアンフィスバエナを含めて上位の竜を5体、それ以外の竜もかなり倒しておいたが、やはりカレンには敵わなかった。
カレンは上位の竜を合計7体、それ以外の竜については移動中邪魔だから倒した、上位の竜を倒したついでに巻き込んだものが多すぎて把握出来ない。
ルミラとフィリアも上位の竜は倒していないが、敵前線の崩壊に一役買っていた。
2人の働きがあったからこそ兵士達もこれだけ戦えて、被害もこの程度で済んだと考えてもいいだろう。
その後皇国と帝国に戦況を確認してみたが、皇国が上位の竜が合計10体、帝国も合計で10体倒したそうだ。
それ以外の竜もかなりの数を倒したものの、各国ともやはり被害は大きかった。
冒険者、兵士共にこれまでで最大の死者と負傷者を出した。
被害の大きさで言えば敵の方が大きいのだが、それで良しという話でもない。
報告を聞く限り、これでも王国は被害が少なかったのだと確認できた。
そして各国の報告から明日の作戦を決めて、夜襲を警戒しながら明日に備えた。
翌日の戦闘では俺達は4人一緒に行動し、ひたすら上位の竜を倒していった。
当然途中でそれ以外の竜も倒していたが、上位の竜の数を考えれば先に排除した方がこちらの士気も上がるし、向こうも動揺すると判断した。
これは皇国も帝国も同じで、英雄達は上位の竜の排除に動いていた。
その結果、確認できた上位の竜は全て倒す事に成功した。
これで人間側は勢いづき、魔族側には明らかな動揺の兆しが見えた。
この状況では流石に竜と言えども、人間側の勢いに押されその多くが倒されるか、又は撤退へと追いやられていった。
この方法が1番被害が少ないと踏んでいたので、この結果には正直安堵した。
撤退してゆく竜達の姿に、あちこちから勝ち鬨の声が上がった。
被害は決して少なくないが、まずはこれでベリアルまでの道が開けた。
後は俺達がベリアルを倒せば、ここでの戦闘は終わりを迎える。
こうして今日の戦闘は人間側の勝利となったのだった。
翌日進軍を再開すると散発的な攻撃はあったが、それ以外に大きな妨害もなく順調に先へ進んだ。
そして更に2日後、俺達は遂にベリアルの居城へと辿り着いた。
城門前には残った竜達が集結してこちらを待ち構えていたが、ここさえ突破すれば後はベリアルとその配下の上位魔族だけだ。
俺達は今後の為に消耗する訳にもいかないので、ここは冒険者と兵士達で道を切り開く事となった。
先の戦い以降は比較的おとなしかった竜達だが、ここは絶対に抜かれてはならないと解っているようで、決死の覚悟が伝わって来る。
若しくはここで逃げずに戦う方がベリアルに逆らうよりマシだと、竜達に思わせるほどベリアルが恐ろしいのかも知れない。
これだけ戦えば流石に竜にも慣れた冒険者、兵士達と、不退転の覚悟で挑んでくる竜達の戦闘は、それは凄まじかった。
双方一歩も退かず、互いに傷つき倒れてゆく。
これまでならもう逃げているであろう傷を負っても、竜達は怯まず最後の瞬間まで戦い力尽きていった。
そしてそれは人間側も同じで今回の作戦は事前に通達してあり、ここは自分達だけで突破する事が厳命されていた。
俺達がここで戦う事になれば、その後のベリアルとの戦いが僅かでも不利になる。
そうなれば万が一不覚でも取ろうものなら、これまでの苦労が水の泡だ。
そしてこの気迫の竜達相手では、僅かな気の緩みでさえ命取りになりかねない。
だからこそ、こうして必死となって竜達と戦っているのだ。
残酷ではあるが、それでもやはり天秤は傾いてゆく。
竜達も粘ってはいたが兵数の差は圧倒的で、徐々にその数を減らしていった。
そしてその流れを押し返す力は、もう竜達には残されていなかった。
遂に門を守る最後の竜が力尽き、ここでの勝敗は決した。
しかしそれでもまだ門から離れた竜達は、逃げる事無く門の方に向かっていった。
もう決して勝敗が覆らない事は解っているだろう。
そしてこうまで竜達を駆り立てているものがベリアルへの恐怖のせいなのか、一緒に戦った仲間の為なのか、あるいは竜としての誇りなのかは俺には解らない。
だが、たとえ死ぬと解っていても最後まで向かってくるその姿には、敵ながら敬意を払うべきだと感じた。
理由はどうあれ竜達は、最後まで己の役割を果たそうとしていた。
俺はそこに、竜達の気高さを感じずにはいられなかったのだった。




