第198話 大激戦
弱気になっている兵士達を奮い立たせる為に、まずは俺達が先陣を切るとしよう。
カレンに目で合図をすると、皆の先頭に立ち
「まず私達が敵の戦線を崩します。皆さんはその後、混乱する敵を討って下さい。……大丈夫、練習通りにやればきっと上手く行きます。勇気を出して下さい」
皆の方を振り返り、穏やかな笑顔でそう言った。
先程までの不安そうな空気が治まってゆく。
兵士達の顔にはまだ若干の恐れはあるが、これなら十分戦える。
俺はカレンの隣に立ち、3人に指示を出す。
「カレン、お前は敵を斬りながら駆け抜けて、上位の竜を狙え。ルミラ、お前は《緋槍プロミネンス》を充填して前線の連中を傷付けていけ。倒さなくてもいい。フィリア、お前はルミラが邪魔されないようにフォローに回れ。もし余裕があれば何体か【混乱】させて、場をかき乱してやれ。俺はカレンのフォローに回りつつ、上位の竜を倒す、行くぞっ!!!」
「「「はいっ!!!」」」
カレンが返事をして、もの凄い速さで敵に向かって突っ込んでゆく。
後を追うようにルミラ、俺、フィリアの順で走り出す。
その間にもカレンはもう敵の前線に辿りついている。
1人突出した形のカレンを、前線の竜が迎え撃つように息の準備をする。
それをさせない為、俺は【認識阻害】【高速】【消火】をカレンの目の前の竜5体に付与した。
その5体は体内の火種を消されて、炎の息を吐く事が出来ない。
戸惑う竜の脇をすり抜けつつカレンが剣を振るい、2体の竜の首が落ちる。
後ろについてくる兵士達に他の竜の息が当たらないように、ルミラが【シールド】を竜の目の前に展開して息を防ぐ。
熱さに強い竜なのであれでダメージを負うという事はない。
しかし思わぬ展開に戸惑い、こちらの接近を許す形となった。
俺はカレンの倒した竜の穴を突く形で後を追い、ルミラとフィリアはそこで留まり前線を崩してゆく。
そしてカレンは上位の竜を目指し、途中立ち塞がる竜達を一刀の元に切り伏せていった。
俺はそんなカレンの手の届かない場所から攻撃しようとする竜を【隠蔽】【貫通】【超高速】を付与した魔弾で、脳を撃ち抜くように倒してゆく。
その間にカレンは上位の竜であるラドンの元に辿り着いた。
ラドンはの100頭を持つ大型の竜だ。
それぞれの頭から炎を吐き、1つ2つ頭を潰した程度では死なない厄介な相手だ。
倒すにはすべての頭を潰すか、胴体にある心臓を破壊するかだ。
だがカレンは、もっと手っ取り早い方法を取るようだ。
カレンが駆け抜けながら聖剣に闘気と魔力を注ぎ込んでゆく。
カレンが何をするのか察した俺は、カレンに【攻撃力強化】【切断】を付与した。
そして練り上げられた闘気と緑色の魔力が混じりあい、聖剣を強く光り輝かせる。
そしてカレンはラドンの懐に潜り込み、聖剣を横に振り抜いた。
「いっけえええぇぇぇ!!!【風牙一閃】ッ!!!!」
【重錬法】によるカレン必殺の【風牙一閃】に【攻撃力強化】【切断】が加わり、放たれた巨大な緑色の斬撃はラドンの身体を真っ二つにした。
更に【風牙一閃】は、消滅するまでに周囲の竜を巻き込んで多大な被害を与えた。
その中には運よく、もう1体上位の竜が含まれていた。
その間ルミラ達は、前線で竜相手に大立ち回りを演じていた。
ルミラは《緋槍プロミネンス》で主に竜の足を攻撃していた。
ルミラなら一撃で竜を倒す事も出来るが、兵士達に出来る事なら任せた方がいい。
敵の足止めと味方への攻撃場所の確保を同時に行って、ルミラはそれを繰り返して敵の前線を崩してゆく。
一方でフィリアは反対側に進み、一定間隔で竜に【混乱】を付与していた。
敵の最も脅威的な部分は、竜が統率されて襲い掛かってくるところだ。
フィリアはそれに【混乱】で楔を入れる事で、統率を乱している。
竜がこちらにとって脅威なら、それが暴れるのは向こうにしても厄介だろう。
本当はあいつらを個別で行動させるべきじゃない。
しかしこうしないといけないくらい、今の状況はまずいんだ。
俺達が動いて少しでも竜の数を減らさないと、被害が大きくなる一方だ。
あいつらなら大丈夫だと信じているが、それでも早く終わらせるに越した事はない。
「……さて、弟子がこれだけやってるんだから、俺も負けてられないよな」
再度気合を入れ直し、目の前に広がる竜の群れに挑むのだった。




