第195話 竜の脅威
「……どういう意味だよ、全滅するって……」
ようやく言葉を発し、ガープに問いかける。
するとガープは
「やべーんだよ、ベリアルの奴は。あいつ自身もその軍勢もな。あいつのもう1つのあだ名教えてやろうか?《竜主》だよ。これで解っただろ?」
吐き出すような口調でそう言ってきた。
俺はガープの言葉を聞いて、今まで漠然とあった違和感を自覚した。
「《竜主》って、もしかして他の軍勢に竜がいなかったのってそのせいか?」
「ああ、古竜とその一族の連中は従ってねーみたいだけど、それ以外の殆どの竜はあいつの配下だ。そしてそれが可能ってだけでどんだけやべーか解るだろ?」
当たり前だ、竜なんて説明するまでも無い最強種の1つだ。
たとえ同ランクの魔物であっても、竜かそれ以外かで難易度は大きく変わる。
全身を強靭な鱗で覆われ、魔物達の中でも無類のタフネスを誇り、口からは特性に合わせた様々な息を吐き、古代種となれば知性も有し独自の魔術も扱う難敵だ。
もちろん全ての竜がそうではないが、竜というだけでその脅威は跳ね上がる。
そんな竜が相手の主力だというなら、こちらの作戦にも大幅な変更が必要になる。
そして幸いにも昨日の会議が思った以上に長引いた為、まだ各国の代表者はこの地に留まっている。
「ガープ、悪いっ!早急に対策を練らないといけないから、俺はもう戻るな。忠告してくれて本当に助かった。感謝してる」
かなり早口にガープに礼を述べ、立ち去ろうとする俺の背中に
「死ぬんじゃねーぞ、カイン!!これで負けたらぶっ殺すからなっ!!」
というガープなりの激励に、俺は無言で右腕を上げて応えた。
大急ぎで本陣まで帰った俺は、各国の代表者に緊急事態である事とその為の会議を開く為、帰還を止めるように兵士に伝言を頼んだ。
俺はまず自分のテントに戻り身支度を整え、カレン達にも総大将の所まで来る様に伝言を頼み一足先に総大将に報告に向かった。
まだ朝の早い時間にも関わらず、総大将殿はきっちりとした姿で俺を出迎えた。
そこで俺はガープから聞いたベリアルとその軍勢の事を話して、各国の代表者との会議の準備をしてほしいとお願いした。
総大将殿は俺の話を聞き、渋い顔をしていたが
「……何も解らぬまま戦って、無駄な犠牲が出なくて済んだと思うべきだな。各国の代表者が残っていたのも不幸中の幸いだ。急いで準備をしよう」
と、あわただしくも会議の準備が進められる事となった。
そして朝食前ではあるが、急遽緊急会議が開かれる事となった。
まだ早い時間だが、流石にだらしない格好の人間は1人もいない。
だが詳しい事情説明もないまま集めた為、若干不機嫌そうな人間が何人かいる。
そんな空気の中、緊急会議の幕が上がった。
まずは王国の総大将殿から、急な呼びたてとこんな時間での会議についてのお詫びがあった。
続いてその事情説明の為、俺が話をする事となった。
そして俺が一礼して話し始めようとした時、皇国の高官の1人が
「……全く、このような時間に呼び出されるとはな。朝食も取らずに来たのだが、それだけの価値があるお話なのでしょうな?」
と、揶揄するような発言があった。
俺の隣に座ってるカレン達3人やシグとシャルも不快そうな顔をするが
「ええ、むしろ早急に対策を練るべき話しかと。それと朝食ですが、会議の邪魔にならぬよう軽く摘める物をご用意しておりますので、ご安心下さい」
にこやかに返してやったら『いや、それならば良いのだ』と言って目を逸らした。
そして俺は、ガープから聞いた話を皆に報告した。
そしてその報告を元に、作戦内容の大幅な変更が行われる事となった。
その一環として共和国にいるヒュージに、対竜用の道具を至急送って貰うよう要請した。
ヒュージはまず後方に控えてる部隊が所有する分を送り、残りは共和国からの物資と共に途中で買い集めて大至急送ると約束してくれた。
この為侵攻は、ある程度物資が届くまで延長される事となった。
もちろんその間遊んでいた訳でなく、冒険者達から竜との戦い方やその特徴などが兵士達に伝えられ、それぞれ修練を積んでいた。
そして2週間後、物資がある程度揃ったところでいよいよ侵攻が始まった。
ベリアルの領土に踏み入って2日経った頃、遂に敵と遭遇した。
相手は当然の様に竜で、大きさは平均的だがそれが7体いた。
種類は通常の竜が5体に、岩の身体を持つ岩竜が1体、そしてやや小柄ながらも空を素早く飛びまわり雷の息を吐く雷竜が1体いた。
いよいよこうして、ベリアルの軍勢との戦闘が始まるのであった。




