第187話 《大王》ベレト
残り3話となります。
「……ふがいない奴等だ。まさかこの儂が直々に相手せねばならんとはな」
「ベレト様に殺される事を光栄に思うんだな、人間共めっ!!」
ベレトの言葉に小悪魔が甲高い声で続く。
……いくら持ち上げてくれると言っても、よくあんなの傍に置いていられるな。
俺なら絶対に無理だぞ、あんなの……
俺が怪訝そうな表情で小悪魔を見ていると、何故かシグも似たような顔で小悪魔を見ていた。
「どうした、シグ?確かにお前が嫌いそうなタイプだろうけど……」
「……そうなのだがな、何故かあの小悪魔を見ていると心がざわつくのだ」
「ん?そりゃどういう意味……」
俺がシグに言葉の真意を確かめようとしていたら、ベレトが攻撃を仕掛けてきた。
魔術で闇の玉を生み出しこちらに放りながら、小太りな身体からは想像も出来ない速さで間合いを詰めてくる。
その動きも魔術も1流と言っても差し支えは無いが、これで大魔族かと言われればどこか腑に落ちない。
そもそもいくら大魔族と言えども、【変身】も無しに俺達と戦うなどありえない。
ケルベロスとフェンリルと戦っている間、【変身】の準備くらい出来たはずだ。
不思議に思いながら戦っていたが、流石に8対1では負ける訳が無い。
ベレトは全身に傷を負って、血だらけになりながら片膝を着いた。
「貴様等ぁ!!よくも儂をこんな目にあわせてくれたなあぁぁぁ!!!!」
と、怒り狂って余計に血が吹き出ていたがそれも不自然だ。
ケルベロス、フェンリルと俺達の戦いを見ていたら、こうなる事ぐらい予想出来て当然だし、そもそも加勢しなかった事も【変身】しなかった事も不自然すぎる。
俺がその理由を考えていたら、ベレトから流れ出た血が黒い靄となりベレトの身体を覆い始めた。
「っ!!そやつから離れろっ!!」
シグが焦った様子で叫び、近くにいたカールさんとドウェルグが急いで離れようとしたが、カールさんは左腕、ドウェルグは左足が黒い靄に触れてしまった。
「ぐっ!!左腕が動かんだとっ!!」
「ぐおおおぉぉぉ!!!左足が言う事を聞かねえっ、なんだこりゃっ!!」
「っ!!ルミラ、ドウェルグを回収しろっ!!シグとシャルはカールさんをっ!!絶対にその黒いのには触れるなよっ!!!」
指示を出しながら、俺はその黒い靄に【解析】を放つ。
そしてそこから得られた情報は
「……セシリアさんっ!!この黒いのは【呪い】の塊だ。まず先に【解呪】しないと治癒も出来ないから注意してっ!!」
俺達がそうしている間に、ベレトの【変身】が終わる。
黒い靄は物質化して、ベレトの身体を全身鎧のように覆っていた。
多分同じもので出来ているであろう、漆黒の大剣を持った黒騎士がそこにいた。
あれが【呪い】で出来ているのなら、こちらが傷付けても傷付けられても碌な結果にはならないだろう。
「……そうか。【変身】しなかったんじゃない、出来なかったんだな。【呪い】が発動するのが【変身】の為の条件なら、敵からある程度の傷を負わされるってのが【呪い】の発動条件か……」
「その通りだ。厄介な条件の為に気軽に【変身】する事も出来なくてな。しかし、その分1度発動したら強力だぞ」
……だろうな。
おそらくあの剣で切られたら呪われて、こちらが攻撃を当てても呪われるだろう。
しかも【呪い】の量は負わされた傷や、流れた血の量によって変わるみたいだ。
カールさんやドウェルグを見る限り、この【呪い】は相手の動きを奪った上で激痛が走るもののようだ。
打ち消すには【解呪】が必須だし厄介極まりない能力だな、本当に。
「さて、それでは反撃といくか。貴様等全員に地獄を見せてやろうっ!!!」
そう言うとベレトは、黒い靄を垂れ流しながらこちらに突進してきた。
ベレトの動きは近接戦闘なら俺、ヴィルさん、セシリアさん以外なら防ぐ事が可能なものだ。
しかしあの大剣は武器で防いでも、滲み出る黒い靄で【呪い】が浸透して許容量を超えれば【呪い】が発動する仕組みなのは、俺の経験上明らかだ。
攻撃を与えても、与えた側に同じ場所に同じだけの【呪い】が発動するのも間違いない。
これは魔術による攻撃でも同じ事だろう。
更に、与えた攻撃による傷や新たに流れた血も【呪い】に加算される事だろう。
つまりあの【呪い】をどうにかしない限り、こちらに勝ち目は無い。
ただ問題は黒い靄ならともかく、【呪い】が圧縮されたあの大剣や全身鎧にただ【解呪】を打ち込んでも、一時的な効果しか得られない事だろう。
もっと根本から【呪い】をどうにかする方法を考えなければならない。
「……ちっ!!カイン、ヴェル、しばらく時間は稼ぐ!!さっさとこの【呪い】をどうにかしろっ!!!」
「……解ったよ。それまでの間は悪いが耐えてくれ。頼んだぞっ!!」
俺はシグの言葉にそう応えて、思考を加速させるのだった。




