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第182話 反攻戦


翌日は昨日の勢いそのままに、帝国軍が快調に進軍していった。

強力な魔物の数が減り帝国兵と冒険者達でも十分戦えるようになったので、基本的に俺達は手出しをせず上位魔族に備える形を採る事にした。

魔物達も昨日までの威勢のよさは息を潜め、あきらかな怯えとこちらに対する恐怖の感情が感じられた。

まあそれだけ昨日のルミラの熱線が、魔物達の心に恐怖を植えつけたのだろう。


昨日の勝利に勢いづく帝国軍と、まだ昨日の惨劇を引きずっている魔物達では勝負にならない。

一部の魔物達はそれでも奮闘していたが、いくらなんでも多勢に無勢すぎた。

結局それらの魔物も帝国軍に倒され、屍を晒す結果となった。

恐怖に飲まれ向かってこなかったものが逃げて生き残り、奮い立って立ち向かったものが倒され死んでゆくというのは、なんとも皮肉な話だ。


今日の戦闘ではルミラが《緋槍プロミネンス》を使う事はなかった。

それでも魔物側がかなり警戒していたのは間違いなく、その証拠に俺が幻術で昨日のルミラの幻を見せてやると、解りやすく動揺していた。

結局今日も大した被害はなく、2日続けての快勝となったのであった。


その日の戦闘が終わり、俺とルミラはドウェルグの元を訪ねていた。

俺達の姿を確認して


「ようやく来やがったか。ほらよ、もう無茶な使い方するんじゃねーぞ」


と言って《緋槍プロミネンス》を渡してくれた。

そう、実は今日ルミラは《緋槍プロミネンス》を持っていなかったのだった。

理由は昨日の戦闘で《緋槍プロミネンス》に使用された魔石が、容認出来ない程に劣化した為だ。

使われている魔石は俺が【精製】【圧縮】して作りあげた最高品質の物だったが、流石に無茶が過ぎたようで、ギリギリ壊れはしなかったが品質が低下した。


代用品になる魔石は俺の手持ちにあったので、ドウェルグに渡して修理を依頼したのが昨晩の事だ。

俺はルミラに全部任せて会わないようにしていたのだが、事情を聞いたら会わない訳にはいかず2人揃ってドウェルグに説教を喰らった。

それで本格的な整備もするという事なので、1日ドウェルグに預けていたのだ。

ちなみにルミラの槍は俺が幻術を使い、《緋槍プロミネンス》に見せていた。


元々今日の戦闘でルミラを戦わせる気は無かったし、あまり俺達が出しゃばっても帝国兵達も良い顔しないのも解っていた。

昨日のはあくまでも反撃の狼煙を上げる為にあえて派手にしたのと、一気に敵戦力を削り戦況を覆す為にやった緊急措置だ。

追い詰められた状況だからこそ許されたもので、本来は他国の人間があんな大手柄を挙げるなど許されるものじゃない。


人類側が勝利しなくては意味が無いのだが、手柄が集中しすぎると別の問題が発生しかねないのが人の世の常と言うものだ。

帝国軍の主体はあくまで帝国の人間であるべきだ。

ここでは俺達は控えに回り、《クラウ・ソラス》に活躍してもらう方が帝国軍全体の士気の上がり方も良い。

よって今日はあくまで《クラウ・ソラス》や帝国兵のサポートに徹した。


その結果、今日も良い雰囲気で戦闘が終わったのはお互いにとっても良かった。

今はまだ魔物達に反抗し始めた興奮から俺達がした事を好意的に受け止めているが、冷静になれば不満を漏らす連中は確実に出てくる。

まあそんな事で文句いう奴は、シグ辺りに


『ならば貴様がやればよかっただろう。まさか出来ぬとは言わぬだろうな?』


と、一蹴されるのがおちなんだろうけどな。



更に翌日も俺とルミラは、あくまでもサポートに徹した。

ルミラは前線に立ったが、《クラウ・ソラス》や帝国兵達を防御魔術で守りつつ、熱線を放つふりで相手を混乱させていた。

俺の方はこれまた以前やったように、魔弾に【俯瞰】と【遠見】を付与し魔力糸を繋いで上空に設置した。

戦況の変化を伝える為と、上位魔族の探索を行う為だ。


俺は上空からこちらの戦線が薄い場所や、相手の戦線の乱れた場所を指摘しつつ、上位魔族がいそうな場所を注意深く探索した。

その結果、敵陣のかなり奥にそれらしい相手が3人いるのを発見した。

幸いな事に丁度集まって何かしているようなので、ルミラに【フレイムランス】を充填するように指示を出しつつ、【隠蔽】【拘束】【高速】を付与した魔弾を3発上位魔族に向けて放った。


それに気付かない上位魔族達に魔弾が命中したのを確認して、ルミラにその方向に熱線を放つよう指示を出した。

放たれた熱線が敵陣を貫き魔物達が混乱する中、熱線は【拘束】された上位魔族を捉えてその全身や身体の一部に大きなダメージを与えた。

熱線を放つ前に《クラウ・ソラス》とドウェルグに、上位魔族の居場所を【伝播】しておきそこに向かうよう告げておいた。


邪魔をする魔物を倒しつつ上位魔族の下にたどり着いた頃には、相手も【拘束】を解きもの凄い目でこちらを睨んできた。

ここまでされたら逃げると言う選択肢は無いのだろう。

こうして、上位魔族との戦闘が始まったのだった。

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