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第180話 反撃の狼煙


テントに戻った俺達は、明日に向けての話し合いをする事になったのだが


「どうした、シグ?妙にグッタリしてるみたいだけど」


ニヤニヤしながらシグに問いかけると


「……黙れ。今は貴様の相手をしてやる余裕が無い」


と、かなりマジな様子で返事を返してきた。

シャルの方を見ると無言のまま、にこやかに笑っているので下手に掘り下げたりはしなかった。

直接シグに言うと問題になるから、心の中だけで言おう。

ザマーミロ、他人の苦労が少しは解ったか、と。


それはさておき明日の作戦についてなのだが、まず俺が敵の飛行能力持ちを倒す。

その後ルミラが《緋槍プロミネンス》を使い、敵戦力を削っていく。

俺はそれから漏れた奴や、火に強い魔物を掃討していくといった寸法だ。


「帝国兵には悪いけど、強い魔物だけ倒すなんて真似は出来ない。あくまでも強い魔物を中心に狙っていくから、周りの弱い魔物も一緒に倒すぞ」


「この状況では仕方あるまい。手柄を取られる形ではあるが、戦に負けては意味が無い。だが1人占めはするなよ」


「解ってるって。俺達は強い魔物の排除が目的だし兵士達の意欲を奪うような真似はしねーよ。ただこの状況だから、士気を高める意味で派手に行くぞ」


「ああ、それは余の好みにも合うな。構わぬ、ど派手にいけ」


よし、シグの許可も取ったし優位に立ったと思ってる相手の度肝を抜いてやろう。


その後の話し合いで、今日出撃しなかったシグとヴェルさんが一緒に前線に向かう事、今日出撃したメンバーは予定通り休息する事、セシリアさんは引き続き兵士達の治療に当たる事が決まった。

今日出撃したメンバーも、明日一緒に行くと言っていたがシグが却下した。

特にシャルは最後まで粘ったが、俺の


『明日は敵戦力を削るのが目的だ。本番はまだ先だからそれに備えてくれ』


との言葉が効いたのか、一応納得はした。

作戦会議が終わり解散となったのだが、俺はシャルに引き止められ少し話をする事となった。

テントの中で行われるのかと思ったが、外に連れ出された。

その際のルミラの『頑張って下さい』がどちらに向けてだったのかは謎のままだ。


少し離れた人気の無い場所に連れられたのだが、


「なんでテントの中じゃ駄目なんだよ?」


と問いかけたら


「そのくらい察しなさいよっ!!馬鹿っ!!」


と怒られた。

一体何が原因だったのかと頭を悩ませていたら、シャルが俺から目を逸らしながら恥ずかしそうに呟いた。


「……その、ありがとうカイン。助けに来てくれて嬉しかったわ」


「ああ、気にする必要はないさ。断る理由も無いしな」


「……うん、でもちゃんとお礼を言っておきたかったの。ふふっ、カインが助けに来てくれたのならもう大丈夫ね」


「……シャル、お前何か悪いものでも食べたのか?いつもだったら『別にあんたがいなくても大丈夫だったのに……』とか『助けてなんて言ってないじゃない』とか言うくせに……」


「……もうっ、だからそういうところが駄目なのよ。人が真剣に話してるんだから茶化さないの、解った?」


「……あー、すまん。何かこの空気に耐えられなくてやっちまった」


「うん、解って貰えればそれで良いわ。確かに私達らしくなかったもの」


そう言って微笑むシャルは、俺の記憶にある幼いシャルと違って1人の大人の女性を感じさせた。

正直、俺は今までシャルを女性として意識した事はなかったが、この時のシャルの笑顔には何故か妙にドキドキした。

それまでは幼い頃から知っているシャルが成長し美人になったとは思っていたが、あくまでも年の離れた妹のような存在だった。

しかしこの時のシャルの対応がいつもと違っていたのが原因なのか、シャルに俺が知らない一面がある事を強く感じさせた。


その後の会話は俺がシャルを意識して妙にぎこちなくしてしまい、シャルに


『ふふっ、今日のカインはいつもとは違うわね。悪いものでも食べたの?』


と、逆にからかわれたりもした。

結局1時間ほど他愛もない会話をして、シャルをテントの前まで送って別れた。



翌朝、俺、ルミラ、シグ、ヴィルさんの4人は前線にいた。

魔物側を確認すると確かに強力な魔物が数多く見られて、これはシグ達が苦戦するのも仕方がないと思った。

まあそれを覆す為の援軍だ。

きっちり仕事をして、相手の度肝を抜いてやろう。


俺は以前ガープと戦った時と同じ様に【遠見】を付与し【隠蔽】【硬化】【貫通】【神速】【条件式】を付けた魔弾を作った。

魔弾が空中にいる魔物を貫き【条件式】《対象:空中にいる魔物に向かう》により次々と空を飛んでいる魔物が、見えない魔弾に落とされてゆく。


それを確認してルミラが《緋槍プロミネンス》に【フレイムランス】を充填する。

そして、本格的な開戦を告げる一撃を敵陣に向けて放ったのだった。

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