第176話 緊急連絡
魔王軍編その2はこれで終わりとなります。
「あー、今回もきつかったな。まさか【次元孔】まで使う事になるとはな」
俺が腰を下ろしぼやいていると
「おい、小僧。今何しやがったんだ、てめーは?」
「……あれを一瞬で消し去ったのか。全く、貴様という奴は……」
「う~ん。凄かったと言いますか、凄すぎたと言いますか、導師様らしいといえばらしかったですね」
3人が俺を褒めるでもなく、呆れた表情でそんな事を言ってきた。
畜生、あっさり終わったように見えるけどかなり難しいんだからな、あれ。
俺はとりあえず3人に【次元孔】の説明を行った。
【次元孔】は別の次元に繋がる孔を作り、そこに相手を引きずり込む魔術だ。
触れたものを問答無用で引きずり込む凶悪な魔術で、俺が師匠から教わった奥義の1つだ。
相手が【次元孔】に触れた瞬間に叫んだのは、ああする事で孔が拡大し触れた対象のみを孔に引きずり込ませる為だ。
【次元孔】を使ったのはあの城の持つ再生能力や高い防御力も無視できるからだ。
あの城に対して魔術の効果がかなり限定されるのは、城の中で確認していた。
それなのにあっさりと【次元孔】に飲み込まれたのは、アスモデウスが空間干渉力を持っていなかったからだ。
この魔術に関しては、ただ空間干渉力のみがものを言うのでそれを持たない相手はどうする事も出来ない。
これだけ凄い魔術ならもっと使えばいいのに、と思うだろうがむしろ使いどころが極めて限定される魔術なのだ。
最初に威力の設定を行い、その後設定した座標で魔術が発動という流れなのだが、威力、出現位置共に後で調整が効かない。
何も無い空間にのみ発動可能な為、相手の体内とかでは無理だし、その場所に固定されるからとにかく当てづらい。
更に制御が難しく魔力消費もでかいという非常に厄介な代物だ。
当時の俺は師匠に対し
『これを俺に教えてどうしろというんだ?』
と問いかけたが、師匠の
『覚えておいて損はない』
との一言で強引に押し切られた。
いや、確かに役に立ったし感謝してるけどな……
一応、別の次元に引き込まれるとどうなるのか師匠に尋ねると
『空間干渉力を持っていれば問題ない。持っていなければ引きずり込まれた途端にばらばらになる』
と、なかなか嫌な情報を与えてくれた。
アスモデウスは空間干渉力を持っていないので、結果は推して知るべしである。
正直あまり進んで使いたくは無い魔術だが、これ以外であいつを確実に倒せそうな魔術も無かったし、使った事自体に後悔は無い。
ただ跡形も無く消えてしまったので、皇国軍への説明は非常に面倒くさそうだ。
その後やはり皇国軍から説明を求められ、【次元孔】について説明をした。
俺の話を聞いて、皇国軍の中には俺を危険視する輩もいたが
「馬鹿か、てめーらは。今は魔族相手に戦争してんだぞ。人間同士で足引っ張って何になるってんだよ」
というおっさんの一言で、俺を危険視していた連中からは謝罪を受けた。
……まあどちらかと言えば、おっさんの言葉よりも俺の事を悪く言われて不機嫌さを隠そうともしないオーベロンと、ニコニコしながらどぎつい圧力をかけて皇国の連中を顔面蒼白にさせていたフィリアのせいかもしれないけど……
とりあえずここでの戦闘は終わり、翌日になり次に向けて行動する事となった。
俺とフィリアは当然王国軍の下に帰るが、オーベロンは皇国軍と共に行動する事に決まった。
アスモデウスを倒した事でもう危険は少ないと思われるが、英雄の数が少ない事を考慮した為だ。
「そっか、それじゃ次に会うのはベリアルの領地になりそうだな」
「それではそれまで暫しのお別れですね。お元気で、ノブツナ様、オーベロン様」
「おう、小僧と嬢ちゃんもな。死ぬんじゃねーぞ」
「しかしこちらは片付いたが、帝国の方は大丈夫なのか?あちらにも大魔族がいるのだろう?あの様なものが現れたら無事では済まんだろうに……」
「向こうの大魔族は強力な魔物を多く抱えてるらしいからな。いくら帝国兵でも楽には勝てないだろうな。まあ、念の為ドヴェルグに援軍要請しておいたけど……」
そんな話をしていたら俺の通信石に通信が届いた。
「はい、こちらカインです」
『ああっ、良かった。繋がった。カイン君、こちらの声は聞こえるかい?』
「ヴィルさん?どうしたのさ、急に連絡してくるなんて……」
俺がそう言うと、ヴィルさんは一呼吸溜めてこう告げた。
『……ああ。これはあくまで私の独断なんだけど、カイン君?急いで帝国に救援に来て貰えないだろうか?』
通信石から聞こえるヴィルさんの妙に真剣な声が、その場に静寂をもたらした。
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