第173話 核
「……素晴らしい。まさかあんな方法で実験体を倒すだなんて。ああっ、僕が想像もしていないものが、まだ世界には溢れているっ!!」
感動に打ち震えた声でアスモデウスが叫んでいるが、正直知った事じゃない。
俺は【隠蔽】した魔弾に【貫通】を付けてアスモデウスに放った。
それに気付く様子も無く魔弾が命中するが
「……へえ、全く気付きませんでしたよ。本当に貴方は興味深いですね」
傷一つ付く事無く、平然とした顔でそう言った。
(……どういう事だ?魔弾は確実に命中したし、防御魔術を使った形跡もないぞ)
俺がいぶかしげな顔をしていると、ご丁寧に向こうから解説してくれた。
「どうして無傷なのかって顔ですね。良いでしょう、貴方には面白いものを見せて貰いましたし特別にお教えしましょう」
そう言うなり白衣に似た上着をはだけ、自らの胸をさらけ出した。
そこには2つの核が埋め込まれていた。
核は魔族の体内に存在する魔族の魂の様なものであり、1人の魔族に1つしか存在しない筈のものだ。
その身体が消滅した時に残り、魔族を倒した証明にもなる代物だ。
それがこいつには2つある。
……いや、本来は核は体内にあるものだ。
ならばこいつは、今見えている核以外にもう1つ核を持っている筈だ。
だったらこの2つの核は一体何なんだ?
「不思議に思ってるでしょう?核が何故こんな場所に2つあるのか。まあ貴方ならもうお気付きでしょうが、僕が適性があったのは《融合魔術》です。あらゆるものを融合させる魔術で、例えば違う生物同士を融合させたり、身体の一部だけを融合させたりといった感じですね」
「……それで両親とトロルを融合させたり、苛めてた連中とスライムを融合させて実験体にしたのか?」
「ええ。まあそれなりに研究の役に立ってくれましたし、最後にとても面白いものも見せてくれましたので本当に感謝しています。それよりもこの核なんですが僕の兄と弟のものです」
「……その口ぶりからすると、そいつらもお前を苛めてたのか?」
「はい、兄は武芸に優れ僕の事は『軟弱者』とか『根性なし』と言っていました。弟の方は魔術に優れ『出来損ない』とか『何の価値も無い』と罵られたものです。兄と弟は両親や周囲からの評価も高く、跡継ぎとしてとても期待されていました。ですが、悲しい事に2人とも亡くなってしまったのです」
「……よくぬけぬけとそんな事が言えるな。お前が殺したんだろう?」
「いえいえ、あれは不幸な事故だったんです。偶々僕が研究していた実験体が暴走しまして、2人を巻き込んでしまったのです。両親や周囲の魔族達は嘆き悲しんでいましたが、僕が『研究の為に2人の核を使いたい』と言ったら快く許可してくれましたよ」
……本当にこいつの話は胸糞悪いな。
要するに邪魔な兄弟に復讐した上で、核を実験の為に回収したって事だろう。
「話が逸れましたね。そもそも核とは一体何なのか。僕は研究によってそれを解明しました。核とはその魔族の情報の全てが詰まったものです。例えば強靭な肉体を持った魔族の核を他の生物に【融合】してやると、その特徴が顕著に出るのです。そして僕は、研究により必要な情報だけを引き出す事に成功したのです」
「って事は、お前は兄から《強靭な肉体》を、弟からは《優れた魔術素養》を引き出して俺の魔術を防いだのか?」
「ええ、こう見えても今の僕の身体はかつての兄と同等の性能ですし、弟の魔術で常に最上級の防御魔術が掛かっている状態です。今の僕に傷を付けるのは至難の技ですよ」
……だから本人が魔術を使った形跡が無いのか。
俺の魔弾はまず防御魔術によって威力を殺され、辛うじて突破したものは肉体強度によって耐えられたって訳か。
だったら……
「ああ、それと言っておきますが魔力切れは期待しても無駄ですよ。この城にいる限り僕には自動で魔力が供給されますからね」
「ちっ、やっぱ予想済みかよ。そうなると正面からその防御を突破するしか方法がないのか」
「何を言ってるんですか?貴方なら僕の想像を超えてくれると期待しているんですよ。さあ、見せて下さい。出来なければ、貴方も仲間も死ぬだけです」
癪だがあいつの言う通りだ。
俺の魔弾を防げるのなら、生半可な防御力じゃないだろう。
正面からなら、おっさんの攻撃力を上げても少し厳しそうだ。
何らかの方法であいつの防御を突破しないと、俺達に勝ち目は無い。
「……おっさん、オーベロン、フィリア。悪いけど時間稼いでくれ。その間に俺が突破口を見つける。頼めるか?」
「けっ、誰に言ってると思ってんだよ。おめーはさっさと自分の仕事に集中しろ」
「こちらでも色々試してみよう。任せたぞ、カイン」
「はい、信じていますね。それまではお任せ下さい、導師様」
こうして、俺達があいつの防御を破れるかどうかの戦いが始まった。




