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第171話 異形なるもの


「それじゃあ僕の実験体を紹介しましょう。外の失敗作とは一味違うから楽しみにして下さいね」


そういってアスモデウスは両手から左右の床に魔術を放った。

すると左右の床が割れてそこから何かが現れた。

俺がそいつを見てまず思ったのは《異形》だった。

果たしてそれは生物と呼んで良いのか解らないくらいありえないものだった。


右の床から現れたのは、トロルと思われる体の胸の部分の左右に、男女の魔族の顔が張り付けられた気味の悪い生き物だった。

更にその魔族の顔は実際にはまだ生きているようで、目を開き言葉を発した。


「……おお、アスモデウス。頼む、もう許してくれ。私達が悪かった。だからもう殺してくれ」


「……アスモデウス、私達が憎いのは解りました。ですがもし僅かでも私達に情が残っているのでしたら、もう楽にして下さい」


涙を流しながら悲痛な声を上げる。

それを聞いたアスモデウスはこう言った。


「憎しみなどありませんよ。それに僕の研究を手伝うとは言ってくれたのはそちらでしょう?父上、母上」


「……待て、今お前なんて言った?父上、母上だと……」


俺の問いかけに嬉しそうに答える。


「先程言ったでしょう、僕の研究を手伝うと言ってくれたと。ですから、こうして実験体として協力してもらってるんですよ」


「……お前、は……」


「それに両親だけでは無いんですよ。こちらも見てください」


そう言って左の床から出てきたものを嬉しそうに紹介した。

それは3体の魔族が1つに混ざり合ったものだった。

体は1つなのに頭だけが3つある。

しかも先程の両親の魔族と違い、その口からは意味の無い呻き声しが出ておらず、もう正気でない事は明らかだった。


「彼等が先程話した僕を苛めていた連中ですね。彼等も僕の役に立ちたいと言っていたので、丁度試したい事があったので協力してもらいました」


……こいつがどこかで歪んだのか、それとも元々こうだったのかは解らない。

だけどこいつを放っておいたら、魔族にとっても人間にとってもやばいって事だけは嫌っていうほど解っている。

こいつだけは、絶対にここで倒さなければいけない。

この狂気だけは、ここで食い止めなければならないんだ。


「……もう良い、十分だ。お前は絶対にこの世界にあってはならない存在だ。俺達が引導を渡してやる。お前の理想とやらを叶えさせる訳にはいかない」


「……誰にも理解されないというのは悲しいですね。でもまあ、仕方ありません。なかなか面白そうな素材もいる事ですし、貴方方も僕の理想の礎になって下さい」


アスモデウスの台詞の後、実験体と呼ばれたものが襲い掛かってきた。

両親の方が前衛で、意外に素早く間合いを詰めてきた。

もう一方はその場に留まり、3つの魔術を同時に使い俺達を攻撃してきた。


しかし俺達もそれを黙って見ている訳じゃない。

両親の方は意外に素早いとはいえ、《剣聖(おっさん)》から見たら止まって見える速さだ。

すれ違いざまにトロルの腹を斬りつけ、致命傷を負わせた。


そしてもう一方の方も同時に魔術が3つ使えるとはいえ、複雑なものは使えないし有効な組み立ても出来ていない。

それでは大した脅威にはならず放った魔術はフィリアが防ぎ、返す刀でオーベロンが魔術で生み出した風の刃で縦に真っ二つにした。


「……あんたら容赦ないな。自信満々で出してきたんだから、もうちょっと見せ場作ってやれよ」


「はあ?何言ってやがる。殺そうとした奴にやり返して何が悪いんだよ」


「同感だな。何よりあんなものは、さっさと殺してやるのがせめてもの慈悲だ」


「……まあ、それに関してはそうなんだけどな……」


しかし得意げに出してきた割には妙にあっさりと終わったな。

強さもそんなに大した事無かったし、何であんな強気でいられたのか解らんな。


そう思っていたら倒したはずの実験体が動き出した。

両親の方は斬られた傷がみるみるうちに塞がっていき、真っ二つにされた奴はその断面から、それぞれが失った部分が出現し2体に分裂した。


「言ったでしょう、《不死》の研究をしているって。両親の方はトロルの再生能力を高めて両親と【融合】させて、魔力や生命力を再生能力の糧にしてみたんです。不思議な事に意識を残した方が能力が高くて、意識を奪った僕の兄弟達の実験体は大した事無かったんですよね」


アスモデウスが嬉しそうに説明してくる。

それは、自分のお気に入りの玩具を自慢する子供のような無邪気な顔だった。


「苛めていた連中の方は斬られると分裂するスライムと【融合】させてみました。こちらは逆に自我があると分裂が上手くいかなくて、それが解るまでに大分時間がかかりましてその連中が僕を苛めていた最後の3人です。それぞれのコンセプトは『生物としての不死』と『存在としての不死』ですね。……さあ、もっと僕に貴重なデータを与えて下さい。そいつらはその為に創ったのですから」

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