第169話 お城探索中
オーベロンが参戦した事で、こちらが一気に優位に立った。
リッチや吸血鬼を倒そうとすると、流石の俺でも消耗が大きい。
しかしあくまで動きを止める、隙を作る程度ならかなり魔力も抑えられる。
止めはおっさんやオーベロンに任せて、俺はあくまでもサポートに徹した。
しばらくするとおおよその中位、上位の死霊と倒した。
それ以外の死霊は皇国兵達によって倒されている。
残る脅威は上位魔族とアスモデウスくらいだろう。
残った敵を駆逐しながら敵本拠地前まで辿り着いた。
一見すると城のようだが、近くで見るとそのおぞましさがはっきりと解る。
この城のようなものは、木や石で出来ているのではなく肉や骨から出来ている。
多分魔物の肉なのだろうが、これだけの大きさの物をを造り上げるのにどれほどの魔物が犠牲になったのか想像もつかない。
これを造ったのはアスモデウスだろうが、どう考えてもやばすぎる。
合流したおっさんやオーベロンも
「ちっ、薄気味悪いったらありゃしねーな。あー気分悪いぜ、全く」
「……狂気の沙汰だな。ここにあるだけで周囲に悪影響を及ぼしそうだ」
と、不快そうに顔を歪めていた。
あながちオーベロンの言ってる事も間違っていないようだ。
ここの空気は明らかに澱み、人間が立ち入る事を拒んでいる。
「……この様な事は断じて許されません。命を弄ぶ様な真似は、決して……」
苦悩に満ちた表情で、搾り出すようにフィリアが呟いた。
フィリアにしてみれば教会の教えにも反しているし、単純にこの様な命を冒涜する行為に嫌悪感を抱いているのだろう。
俺にしたって気分は悪いし、何よりこれだけの物がただ無意味に造られたとは考え辛い。
(まさかあの時間稼ぎのような襲撃は、これを完成させる為に行っていたのか?)
俺が思考をめぐらせていたら、俺達を招待するように城門が開いた。
どう考えても罠としか思えないが、この城にアスモデウスがいるのは間違いない。
待っていても埒が明かないし、壁を斬りつけてもかなり頑丈な上、再生能力もあるみたいだ。
この城を破壊するのが現実的でない以上、罠と解っていても進むしかない。
先行して城の中を探索する部隊、実際に城の中を攻略する部隊、内外で城門を確保する部隊に分かれ進む事になった。
俺達は当然攻略部隊に配置され、先行部隊が探索した後に続き城の中を進む。
城の中はそれなりに広く中には死霊がいたが、あまり数は多くない。
強さも精々中位くらいなのだが、とにかくこの城の中にいるだけで精神的にやられそうだ。
雰囲気というか空気というか、そういったものが最悪だった。
死霊独特の腐ったような臭いはするし、空気そのものも澱んでまともに呼吸する気になれない。
仕方ないので【浄化】を撃ち込んでみたが、この空気のせいか城のせいか解らないが一瞬だけ効果があったがすぐに元に戻った。
今度は実験も兼ねて俺自身に【聖属性付与】を行うと、効果は持続されたまま呼吸も普通に出来た。
この事から考えると、この空気自体がいわゆる瘴気というやつで人体に悪い影響を与えているようだ。
以前潜った《死者の迷宮》でも似たようなものはあったが、こちらの方がはっきりとしている。
そうなれば【浄化】を無効化されたのは、この城によるものだという事になる。
少なくともこの城に対する魔術は、著しく効果が低くなるみたいだな。
俺はとりあえず周囲の人間に【聖属性付与】を付けて瘴気の影響を抑えた。
それから通信石でこの事を伝えたが、そもそも【聖属性付与】を出来る人間が皇国には殆どいない。
俺は皆に連絡して城から出て【聖属性付与】を全員に付与してから再度城の攻略を目指した。
城から出てきた時、かなり顔色が悪い人間が何人もいたのでこの判断は間違いじゃないだろう。
そして再び城に入ったが、この城は魔物も少なかったが罠はもっと少なかった。
精々落とし穴が幾つかある程度で、あってもおかしくない罠の類は全く無かった。
まあ瘴気が罠みたいな物だし、この城の構造や材質では難しいのかも知れない。
それからしばらく探索が続き、1つの扉が見つかりそこに案内された。
普通なら中を確認するところなのだが、今回は開けないままで呼ばれた。
その理由は扉の前に立てば嫌でも解った。
ここから漏れ出す瘴気が異常なまでに濃かったからだ。
「ああ、これだけ濃い瘴気ならほぼ間違いなく当たりだろうな」
俺達は念の為おっさんに扉を開けてもらい、その奥へと足を踏み入れた。
扉の先はとんでもなく濃い瘴気が充満して【聖属性付与】が無ければまともに呼吸も出来なかっただろう。
部屋の中はただ広い空間で、部屋の奥には1人の魔族が待っていた。
「ああ、ようやくやって来たのですね。初めまして、僕はアスモデウス。大魔族や邪王と呼ばれている者です」
この部屋にそぐわない柔和な笑みで、アスモデウスは俺達を迎え入れた。




