第１６５話 次なる戦場
魔王軍編その２となります。
「そういえば１つ気になったんだけど、お前なんで【変身】しなかったんだ？」
俺はガープに先程の戦いで疑問に思った事を聞いてみた。
もの凄く嫌そうな顔をしたが、渋々ながら答えてくれた。
「……【変身】出来ねーんだよ。【反魔術】のせいなのか知らねーけど昔からだ」
「一応断っておきますが【変身」出来なくとも、ガープ様はそれ以上の力をお持ちでしたよ。他に例が無いので特異体質なのでしょうね。それが理解できない愚か者も多かったですが……」
「良いって、ハーゲンティ。まあ昔は出来損ないって馬鹿にされてたけど、今じゃ大魔族なんて呼ばれて気の合う連中と好きにやってるしな。……それでも昔馬鹿にしてた連中が手のひら返した時にはスッとするかと思ったけど、媚びた面で詫びの一言も無くおべんちゃら言ってきた時には１０倍ムカついたけどな」
「……意外に苦労してたんだな、お前。ああ、それで今後の事だけど……」
「解ってるよ。俺様の領土は素通りさせてやるし、そっちが攻撃しなけりゃこっちからは手を出さねーよ。負けた以上筋は通すさ」
まあ、ガープの性格上本気で言ってるだろうな。
他の魔族なら、まず裏があるんじゃないのか疑うところなんだがな。
その後しばらく歩いた後、ガープが質問してきた。
「……なあカイン、１つ教えろ。人間側で１番強いのはお前等か？」
「多分な。でもそれがどうしたんだ？」
「……だったら他の大魔族相手にするんなら、加勢に行った方がいいぞ。あいつら腐っても大魔族って呼ばれるだけあって強いし、その中でもベリアルの野郎は特にヤベーぞ」
真剣な表情でそう伝えてきた。
……こいつがそこまで言うほどの相手か。
洒落になってねーな、本当に。
それぞれの大魔族の領土を聞けば帝国側にベレト、皇国側にアスモデウス、そして俺達が向かう先にベリアルが待ち受けているようだ。
それぞれの状況を確認してみると、皇国のジュウベエからは
『遅れて出発した分、まだ大魔族らしい相手との接触はありません。しかしその話が本当なら、あまり我々とは相性が良い相手では無さそうですね』
との事で、帝国のヴィルさんの方は
『……ああ、そういう理由なのか。やたらと強力な魔物が多くて侵攻が予定通りに進んでいなくてね。話を聞く限り魔物を排除しない限り、大魔族は出てきそうにも無いね」
という話だった。
加勢に行った方が良いかと確認すると、ジュウベエからは
『是非お願いします』
と言われたが、ヴィルさんからは
『今の段階で加勢をお願いすると、陛下やシャルロット様が納得しないだろうね』
と言っていた。
うん、俺もそう思う。
陛下達とも相談した結果、王国軍の侵攻速度を抑えて俺とフィリアが皇国へ向かう事となった。
カレンとルミラがぶーぶーと文句を言っていたが、流石に王国軍をほったらかしで全員で向かう訳にはいかないし、フィリアを選んだのは敵との相性が良いからだ。
念の為オーベロンには皇国の、ドヴェルグには帝国への援護を頼んでおいた。
まずは先行部隊を率いて合流し、後に本隊がやってくる手筈だ。
俺とフィリアはカレン達に後の事を任せ、飛行魔術で皇国へ向かった。
定期的にジュウベエと連絡を取り合い、合流出来たのは４日後の夕方だった。
見るともう魔物達と交戦していて、皇国軍は大分苦戦しているようだった。
相手が死霊というのが良くないのだろう。
斬っても死なず、そもそも物理攻撃自体通じない相手も多い。
俺とフィリアは皇国軍の中心付近に降りて、怪しまれながらも味方である事を説明してフィリアに結界を張らせて俺が【拡大】【聖属性付与】【増幅】を付けて展開した。
広がった結界内の人間の武器防具に聖属性が付与され、攻撃が通じなかった死霊達を次々と倒してゆく。
こうして魔物側を押し返す事に成功し、不利とみた魔物側が撤退し一時的ではあるが戦闘が終わった。
その後本陣に移動し、救援に来た事を報告しているとジュウベエが現れた。
「カイン殿、お久し振りです。この度はご助力頂き誠にありがとうございました」
「いや、役に立てて何よりだよ。見たところ苦戦してたみたいだけど、やっぱ相性がよく無さそうな感じか？」
「はい。皇国では怨霊の類は陰陽師が担当するのですが、まさか敵が全てそうだとは想定していなくて後手に回り、武士達が上手く働けなかったのです」
「まあ、それは想定しろってのが無理だしな。俺とフィリアなら聖属性を付与する事が出来るから、問題も解決するだろう」
「ありがとうございます。それと大変に厚かましいのですが、カイン殿とフィリア殿にご協力をお願いしたい事があるのですが……」
ジュウベエが申し訳無さそうにそう言ってきたので、話を聞く事になった。
