第149話 アゼリアを目指して
「よし、それじゃ出発するぞ。準備はいいか?」
俺の呼びかけに対し
「……はい、先生。いつでも出発出来ます」
「……大丈夫です。忘れ物もありません」
「私も問題ありません。……あの、ですからティターニア様、もうそろそろ放して頂けませんか?」
「……もうちょっと、もうちょっとだけ!……あと30分でいいから……」
「……いい加減にしろ。昨晩『これで最後だから』と散々話しただろうが……」
と、疲れた様子のカレンとルミラ、相も変わらずティターニアにくっつかれて苦笑しているフィリア、そのフィリアから離れるのを嫌がるティターニア、それを見てティターニアを引き剥がすオーベロンとなかなかに混沌としている。
結局、出発前日は予想通り揉めに揉めた。
正直もう1日早く出発する予定だったのだが、ティターニアが『もう1日だけ』と頼み込むので渋々遅らせたのだが、やはりこうなった。
予想していたし3人にも話を通していたので、最後の夜は女性陣だけで集まり一晩過ごした。
そして艶々した顔のティターニアと、疲れた顔の3人が翌朝部屋から出てきて今に至るという訳だ。
ティターニアが渋っているが、あれでもかなりマシな方だろう。
しかしこの様子なら別れた後、激しく落ち込むのも予想できる。
ティターニアの性格上慣れる事はなさそうだし、むしろ会う度にどんどん悪化してしまいそうだ。
こりゃ以前から考えていた映像石と通信石を組み合わせた、相手の姿が見えた状態で話が出来る魔術道具でも開発しないと、いずれはこちらから定期的に訪れるか、向こうから押しかけるかのどっちかになりそうだ。
ようやくティターニアの引き剥がしに成功し、羽交い絞めでオーベロンが押さえている間に慌しく別れを告げた。
その後ようやく馬車まで辿り着いた俺達は、そのまま共和国の首都であるアゼリアに向かって出発した。
道中3人はよほど寝不足だったのか、走り始めてすぐに寝てしまったので起きない様にゆっくりと進んだ。
目を覚ましてからは通常通りに飛ばして、5日目には無事アゼリアに到着した。
着いたその足でヒュージ達がいる代表の館へ出向き、面会の予約を取る。
流石に今日会う事は出来ないが、どうにか明日時間を作るとの返答が返ってきた。
その日は宿を取り、屋台の甘口のカレーに舌鼓を打ち就寝した。
翌朝食事が済んだ頃に面会時間が夕方頃になったと伝言があり、修行と観光で時間を潰して面会時間になったので向かった。
館に入りヒュージ達の所に案内され、部屋に入る。
部屋ではヒュージとルウさんが待っていて、笑顔で出迎えてくれた。
挨拶の後さっさと本題に入り、通信石を渡し使い方を説明する。
「……という感じだ。通信時間に限りがあるから無駄遣いするなよ」
「ふむ、以前に話していた道具だが随分と便利な物だな。……カイン、なぜこれをもっと早く渡してくれなかったんだ?」
「……あんたらと旅してた時ならそもそも作ってなかったし、再会した時なら数を作ってないからだ。そしてこんな便利な物渡したら、どうせあんたらなら碌な事に使わないだろ?」
「何言ってるのよっ!!私達がそんな事するはずが無いでしょう。信じてくれないなんて酷いわ、カイン!!」
「……そういう台詞は、過去の自分達の言動をしっかり思い出してから言おうな、ルウさん?」
俺がジト目で2人を見ると、仲良く目を逸らすあたり本当に良いコンビだな。
まあ説明も終わったし、さっさと帰ろう。
席を立つ俺を見て、ヒュージ達が引き止めるが
「あんたらだって忙しいんだろ?俺達と話してたら仕事が溜まる一方じゃねーか」
「いや、最近は特に単調な仕事ばかりで気が滅入っていたんだ。ここで気分転換にお前達と話をする事は、とても重要なんだ」
「そうよ、カイン。私達ももっと話したい事もあるんだから。……特に貴方の女性関係についてとか……」
「さあ、帰るぞ。こんな所に長居したら馬鹿が移るからな」
立ち上がった俺の服を2人が掴んで離さない。
……結局もう少しこの場に残り、話を続ける事となった。
しかし俺の女性関係など話す訳も無く、話題に困っていると
「あの、お2人はどの様に先生と出会われたのだすか?」
「なるほど、確かにそれは興味があります」
「私達の知らない導師様のお話でしたら、聞いてみたいですね」
と3人からの提案があった。
「……まあ、出会いの場面なら問題ないか。旅の話となると本気で話すと不味い所があるしな」
「そうだな、アレは話すと3人も巻き込む事になるしな……」
「知ってる人間は少ない方が幸せだものね。避けた方が賢明よねー」
俺達の反応を見て、何があったのかと興味津々だがいくらこの2人でもアレを話すほど馬鹿じゃない。
とりあえず最初に言った様に、出会いの場面でも話すとしよう。




