第14話 勇者指南役代理人(仮)
勇者指南役代理人、略して代理人になってから、俺の生活は少し変わった。
まず当然、勇者達への教育、指導が義務付けられた。
基本6日教えて1日休み、時間は朝から夕方まで。
冒険者活動は基本休み。もし行うのなら3人も連れて行けとの事だ。
当たり前だが、給金は国から出ている。なかなかの金額だ。
ただ、流石に国王陛下が認めたとはいえ、一介の冒険者が代理人というのは
他の貴族達がいい顔をしなかった。
まあ、何処の馬の骨とも知れない奴では、不安にもなるだろう。
結果、2ヶ月のお試し期間で、俺の代理人の可否を決めようと相成った。
「カイン様、私達頑張りますから、安心して下さいね」
「全く、あの連中ときたら…しかし、ここで結果を出せば文句ないだろう」
「…さあ、これからという時に…許しがたいですね…」
などと3人とも気合が入っている様子だ。
…正直、訓練の内容が内容だけに、申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが…
「…あー、訓練内容だが、午前は魔力練成、午後は模擬戦。2ヶ月ずっとな?」
「「「えっ!!!」」」
3人が驚きの声を上げる。まあ、模擬戦はともかく魔力練成だからな…
「…あの、カイン様?魔力練成って、あの魔力練成ですよね?」
「何故今更そんなものを…時間も限られているというのに…」
「…あの、カイン様?疑う訳では無いのですが、本当に?」
「…ああ、正直2ヶ月じゃ、何をしても中途半端にしか身につかない。
だったら魔力練成で魔力の質を、模擬戦で戦闘経験を向上させた方がいい」
魔力練成とは、魔術行使が未熟な人間が行う、基礎中の基礎の訓練だ。
体内の魔力を練り上げ、質を高める事により魔術を使える様にするといった物だ。
3人が微妙な顔なのは、魔術が自由に使える人間は殆どしない訓練だからだ。
だがこれには意味があり、ただ魔力練成するだけの訓練ではないのだ。
「…まあ3人が疑問に思うのも解る。でもよく考えてみてくれ。
魔術が使えない人間が、魔力練成を行うと魔術が使えるようになる。
という事は、魔術行使には魔力の質が関係しているという事なんだ。
実際、魔術の威力、効果、範囲などは魔力の質に左右される」
「…なるほど、確かに言われてみればそうですね…」
「…ですが、私達では、あまり効率が良くないないのでは?」
「…私達の魔力の質は、普通よりかなり高いですしね…」
そう、3人の魔力の質は十分に高い。
ただ、多分世界で俺と師匠にしか解らないだろう理屈があるのだ。
「…魔力は練成を行う事で質が高まる。そしてある一線を越えればその性質が一変する。それを俺は純魔力と呼んでる。
純魔力での魔術は、ただの魔力で使う魔術とは比べ物にならない。
普通に使えば桁違いの威力だし、同程度の威力なら消費する魔力は数分の一だ。
更に同程度の魔術同士の打ち合いなら、純魔力の方が上質な分だけ勝つんだ」
こんなに凄いのに何故知られていないのかと言うと、純魔力まで練成するのが
無茶苦茶難しく、且つ面倒くさいのだ。
普通、魔術を使えるまでに魔力練成するのは、例えるなら川の水を掬い大きなゴミを取り除いた様なものだ。水として使うのならそれで十分だ。
それに対し、純魔力を練成するというのは、そこから更に水の中の細かいゴミまで全て取り除くという様なものだ。はっきりいって気が遠くなる様な作業だ。
…まあまともな人間ならまずやらないのだが、俺の場合そんな状況じゃなかった。
少しでも強くなれるのなら、どんな方法でも試さずにはいられなかっただけだ。
その辺りの説明を終えた俺に、3人から質問があった。
「…カイン様、その純魔力ですが私達が会得するとしたら、何時頃でしょうか?」
「…順調にいっても、1年半から2年後ぐらいだと思う」
「そんなにかかるのですか…でしたらその間の魔力練成は無駄なのでは?」
「いや、続ける事で練成の精度も魔力の質も上がる。
劇的に変わるのが純魔力になってからってだけだ。
それに俺は、3人に無意識でも魔力練成が出来る様にするつもりだ」
「…無意識ですか、…それってものすごく難しいのではないでしょうか?」
「…このままなら、2ヶ月後に意識的にぎこちなく出来れば上出来ってとこだ」
「…だったらカイン様が代理人を辞めさせられるのでは…」
「可能性は有るだろうな。それでもこれが最善だと思う」
もし、見栄えのいい付け焼刃を仕込めば、解任される事はないだろう。
でもそれでは、代理人の意味は無い。
「…3人にも自分の考えや不安があると思う。だから俺に出来るのは3人に頼む事だけだ。…俺を信じてくれないか?」
そういうとカレンは、はにかみながら
「…私はあの時から、貴方を信じると決めていますから…」
ルミラは照れくさそうに
「…全く、貴方が代理人なのですから、自信を持ってください」
フィリアは穏やかに
「…貴方様がそう仰るのであれば、私達は信じるだけですよ」
そう言ってくれた。
(…全く、俺が教えるのが申し訳無い様な良い娘達だよな…)
そう感じながら3人に話しかけた。
「…さあ、それじゃ訓練を始めよう」




