第147話 ティターニア無双
オーベロンに勧められて着席しようと皆が動いた。
この家の応接間にはテーブルを囲むように、1人掛けと2人掛けの椅子が2脚ずつあるのだが1人掛けには俺とオーベロン、2人掛けにはそれぞれカレンとルミラ、そしてフィリアとティターニアが座る事になった。
俺としては2人掛けにオーベロン夫妻が座り、残りを適当に埋めれば良いだろうと考えていた。
しかしいざ席に着くとなった時、ティターニアが素早くフィリアの手を取り、2人掛けの椅子に向かい着席した。
そのあまりの早業と、座った後にフィリアを抱きしめもの凄く幸せそうな顔をするティターニアの姿に他の全員が呆気にとられた。
俺はオーベロンに向け無言の眼差しで
(……良いのか、これ……)
と、訴えたがオーベロンは『仕方ない』とばかりに首を横に振るだけだった。
……いや、お茶の準備誰がするんだよ、これ……
結局お茶の準備は席を確定させた後、ティターニアが行った。
しかしそれが終わると再びフィリアにくっつくものだから、初見のカレンとルミラがどう対応して良いものか戸惑っていた。
一応、フィリアからティターニアと仲良くなったと聞いてはいたが、これほど熱烈なものだとは思わなかったのだろう。
ティターニアはずっと嬉しそうに笑っているし、フィリアの方も苦笑はしているが本当に困っている訳ではなく、仲の良い姉妹がじゃれあってる感じだ。
放っておけば何時までもそうしていそうだが、下手に手を出し邪魔でもしようものなら間違いなくティターニアがへそを曲げる。
そして俺達はそうなった時どれだけ大変なのか、前回身をもって知っている。
オーベロンも同じ考えに至った様で、俺達は無言で頷きあい話を始めた。
「それじゃまずはこっちの2人の自己紹介からだな。2人とも、あれが《森の王》オーベロンだ。そしてこっちが《勇者》のカレンで、あっちが仲間のルミラだ」
2人に話を振ると『……この状況で話を進めるんですか?』と怪訝そうな顔をしたが、俺が無言で頷くとおずおずと自己紹介を始めた。
「……初めまして、私はカレン・フォウ・ベテルギウスと言います。先生の弟子で王国では《勇者》を名乗らせて頂いています」
「……ルミラ・テオ・シリウスです。カレンと同じくお師様の弟子で《守護騎士》と呼ばれています。よろしくお願いします」
「我はオーベロンだ。周りからは《森の王》などと呼ばれてエルフの代表のような真似をしておるな。……そしてあそこでお主等の仲間に迷惑を掛けておるのが我の妻のティターニアだ。後で言って聞かせるので、どうか見逃して欲しい」
「何よー!良いじゃない、久し振りにフィリアと再会したんだから。ああ~、もう可愛いっ!!フィリアは当然としてそこの2人もすっごく可愛いっ!!話したい事が一杯ありすぎて今日1日じゃ、全然足りないわっ!!」
「……あの、数日は滞在する予定ですし、2人も交えてたくさん話をしましょう。以前ティターニア様の事を話したら、1度お話したいと言っていましたから」
「そうなの?それじゃ今晩は皆でお話しましょう。……それじゃ改めまして、私はティターニアよ。2人の事はフィリアからよく聞いていたわ。こうして2人に会う事が出来てとっても嬉しいわ。よろしくね」
……フィリアのやつ、上手いな。
こうして2人を巻き込む事で、自身の負担を大きく減らす事に成功した。
ただ残念な事に俺の見立てでは、ティターニアはこの場合向けるエネルギーを3分の1するのではなく、むしろ3倍にするタイプと見た。
……最初に見た時は神秘的なエルフ美人だったのに、フィリアが絡むと途端に残念な感じになるよな……
カレンとルミラがぎこちなく挨拶を返すのを見て、心の中でそう思った。
お茶を飲みながら近況報告を行い、その後雑談へと移行した。
まあ結局俺がオーベロンと、そして女性陣が集まって話すという形に落ち着いた。
ただ女性陣の会話というかティターニアが止まる気配が無く、落ち着いて話す為に男2人は移動する事になった。
別の部屋でオーベロンと話し、俺は通信石を1つ手渡しておいた。
「多分使う事は無いけど、念の為持っててくれ。何かあった時すぐに連絡が取れるから。……ただし絶対にティターニアに見つからない様にしてくれ」
『もし見つかったら彼女の性格なら、毎日フィリアと話をしかねない』
そう話すと
「……解った。絶対に見つからない様に隠して持っておこう」
と、真剣な表情で頷いた。
その後最長老様にお礼が言いたい旨を伝えると、明日訪問する手筈をつけてくれるとの事だった。
オーベロンに礼を言い応接間に戻ってみると、いまだに女性陣が話していた。
ティターニアの勢いは留まる事を知らない様子なので、俺達はさっさと退散する事を決め町をぶらついた。
しばらくして帰ってみると生き生きとした様子のティターニアと、やや疲れた様子のフィリア、そして死んだような目をしたカレンとルミラの姿があった。
オーベロンが何とかティターニアを説得して、夕食の準備に取り掛からせた。
その後就寝の時間になったが『今日は長旅で疲れているからゆっくり休ませたい』と俺が申し出た時のカレン達が向けた眼差しが今までで最高の敬意に満ちていた。
ティターニアは非常に残念そうだったが渋々納得し、その日は皆が穏やかな眠りについたのだった。




