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第144話 未来を紡ぐ


「……今なんて言うた?(やまい)を治すってほんまかっ!!」


「ああ、方法が見つかったんだ。ヤヨイさんに会わせてくれるか?」


俺の言葉に驚きつつもヤタローは頷き


「解った、今やったら部屋におるからついてきてくれ」


と、俺達を部屋まで案内した。

少し歩いて部屋の前まで行き、中に声をかける。


「ヤヨイはん、ヤタローです。お邪魔してもよろしいでっしゃろか?」

「……旦那様ですか?どうぞ、お入りになってください」


その声に促され、部屋へと入っていく。

俺達の姿を確認したヤヨイさんは、驚きつつも嬉しそうに


「まあ、カイン様達もご一緒だったのですか。この様な姿で失礼致します。以前は大変お世話になりました。再びお会い出来て大変嬉しく思います。……もう、何故カイン様達がご一緒なのを内緒にされたのですか?意地悪です、旦那様……」


と、出迎えつつヤタローに対し可愛く拗ねて見せた。

この様子を見る限り2人の中は良好のようだ。


「い、いや、ワイも急に訪ねてこられて驚いたんや。そ、それよりもヤヨイはん、人前で旦那様言われるのまだ慣れんので、ヤタロー言うて欲しいんやけど……」


「あら、これから私の旦那様になる方がその様な事では困りますね。はい、ちゃんと背筋を伸ばして恥ずかしがらないで下さい、旦那様」


2人の初々しくも仲睦まじい様子に、カレン達は目を輝かせていた。

俺の方も幸せそうな2人を見て、ほっこりと暖かい気持ちになる。

……まあだからといって、何時までもいちゃつかれたら話が進まない。


「……あー、仲が良いのは結構だが本題に入っていいか?」


俺がそう声をかけるとヤタローは勢い良く離れたが、ヤヨイさんの方は笑顔のまま『あら、残念ですね』なんて余裕一杯だ。

うん、ヤヨイさんがヤタローの手綱を上手く握ってる未来しか見えないな。

でも、それがこの先も続くようにする為ここに来たんだ。


「ヤヨイさん、今日は貴女の病を完治する為に来ました」


俺の言葉に、ヤヨイさんが驚きの表情を見せる。


「……それは本当なのですか?治療方法が見つかったのですか?」


「はい、まず貴女の病の原因を説明させて頂くと……」


俺は原因が大昔の魔族によって作られた禁呪に酷似している事、その魔術を解析し魂に干渉する手段を得た事、そしてその呪いを解く為の術式を完成させた事を彼女に告げた。


「理論上は問題ないはずですし、知り合いの魔術師からもお墨付きを貰ってます。……ただ、1つ心配な点があります」


「……それはどういった事でしょうか、カイン様?」


「先程説明した様に、治療の術式は貴女に呪いを振りまく虫のようなものの性質を変化させて、それ自身に治癒させます。その後その虫を取り除きますがその前に、虫自身の時間の流れを速めて治療の時間を短くします」


「……方法は理解しました。それで心配な点とは何でしょうか?」


「時間を早めるという点です。虫の動きは本来かなり緩やかなはずです。けど時間を早めれば痛みを感じたり、一時的にですが魂が傷つくかもしれません」


「それでしたらゆっくりと治癒する事は出来ないのですか?そうすればその危険性も抑えられると思うのですが……」


ヤヨイさんが考えた方法は俺も思いついた。

しかし2つの可能性からそれを却下した。


「それは俺も考えました。しかし、もしもヤヨイさんが生まれた時から虫が呪いを振りまいたのなら、治癒するのも同じ時間が掛かります。そして貴女のお母さんも同じ症状だったという事は、この呪いは子供に遺伝する可能性があります」


「……っ!なるほど、そういう理由なのですね。ゆっくりと治癒していては、私は子供を産めなくなるかもしれない。虫を取り除かなければ、私達の子供もまた同じ苦しみを抱えるかもしれないのですね」


「虫が魂から呪いを取り除けば、魂を治癒する事は出来ます。しかし虫を反転させ時間を進める術式の最中に重ねると、どういった影響がでるか解りません。だから虫を取り除くまでは、ヤヨイさんに耐えて貰うしか無いんです。正直かなりの苦痛に耐える必要がありますが、どうしますか?」」


俺は説明を終え、ヤヨイさんを見る。

この術式の成否を分けるのは、ヤヨイさんが治療を終えるまで耐えられるかどうかという点だ。

治療を躊躇ったとしても無理は無いのだが、それでもヤヨイさんは


「カイン様、お願いします。どうかその治療を行ってください」


と、迷う事無く答えた。

その躊躇いの無さに、むしろヤタローの方が戸惑っていた。


「ヤ、ヤヨイはん?そない焦って決めんでも、よう考えてからでも遅ないんやないか?」


「いいえ、もう決めました。カイン様の説明では時間が経つほど悪化するようですし、完治しなければ私達の子供にまで影響が出ます。……旦那様、私は母が最後に『……ごめんなさい。もっと一緒にいてあげたかった』と申し訳無さそうに言ったのを覚えています。私は自分達の子供に同じ思いをさせたくないんです」


訴えるような眼差しでヤタローを見つめる。

その強い意志に、ヤタローは1度大きく溜息を吐いて言った。


「……解った。そないな顔されたら何も言われへん。……カインはん、治療の間中ヤヨイはんの手を握っていてもかまへんか?」


「……ああ、こちらからも頼む。2人で未来を勝ち取ってくれ」


「……はい。私達の、そして子供達の未来を紡ぐ為、どうかカイン様のお力添えをお願い致します」


2人が深々と頭を下げる姿に、俺は静かに自らを奮い立たせるのだった。

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