第143話 再び皇国へ
あっという間に時間が過ぎた。
その間カレン達は指導の合間に公式行事や施設訪問を行い、俺の方はただひたすら通信石を作り続けていた。
3人からは一緒に行く様にせがまれたが、魔石の精錬から加工、付与、機能の設定まで1人でこなしてる俺にそんな暇があるはずも無い。
施設訪問の際には、カレンがアルトに再会したと話していた。
今では、自分みたいな人間が少しでも減る様に将来冒険者になるのだと言っているそうだ。
孤児院でも率先して手伝いをする様になり、年下の子の面倒も見ているとの事だ。
以前のような暗い表情は微塵も無いと、カレンは嬉しそうに語っていた。
まあ忙しかったといってもこちらの本題はカレン達を鍛える事なので、少し空きが出来たら冒険者ギルドで近場の依頼を受ける様にしていた。
正直近場の魔物では相手になるのはいないのだが、3人の【概念】の練習と俺達の溜まりに溜まった日々のストレス解消には絶対に必要なものだった。
あいつ等もこういう行事に慣れているかと思えば
「昔とは規模が違いすぎて、以前の物は参考になりません」
「以前であれば少しお話して終わりなのですが、今は行事が終わるまでずっと笑顔で座ったままなのが辛いです」
「施設訪問でも人々の熱気が凄いですね。掛かる期待の重さが以前とは比べものになりませんね」
との事だった。
だから依頼に行くと言った時は、表情を輝かせて頷いたものだ。
流石に回数はそう多く取れなかったが、3人ともよほどストレスを抱えていたのか魔物を討伐する時は、とても生き生きとした表情だった。
……だが仮にも貴族であるこいつらが、そういう行事でストレスを感じ魔物の討伐で発散するというのは、正直俺の教育方針に問題があったのかと悩むところだ。
魔物だけでは流石に修行にならないので、俺との1対1や組み合わせを変えながら2対2の模擬戦も行った。
【概念】も効果的に使える様になったし、上位魔族が相手でも今の3人なら勝つ事は可能だろう。
しかし魔王を倒せるかといえば、まだ疑問符がつく。
魔王の強さが判明していないし、大魔族と呼ばれる4人も姿を現していない。
魔王領に踏み込めば否が応にも戦わざるを得ない相手だし、何よりも圧倒的な力を持った1人は強い相手を複数人相手するより性質が悪い。
大魔族が上位魔族を従える存在である以上、複数の上位魔族では敵わないくらいの強さを想定すべきだろう。
もし大魔族と上位魔族複数人が攻めてきたら、今の俺達が全力で戦っても無傷では済まないだろうし、相性次第では勝つ事も厳しいかも知れない。
(……それでも勝たないとな。こいつらを殺させる訳にはいかないんだ)
出会う前なら《勇者》がどうなろうと大して気にも留めなかっただろう。
しかし今の俺にとって、こいつらは《勇者》とその仲間ってだけじゃない。
教え子であり互いに信頼しあう仲間でもある。
今の俺ならこいつらの為なら、きっと我が身を犠牲にする事も厭わないだろう。
我ながら甘くなったとは思うが、悪い気分じゃない。
遠い昔に無くしてしまい、再び手から零れ落ちたはずの大事な物がここにある。
1度目はどうしようもなく無力で、2度目はきっと力不足で零してしまったものを今度こそは守る為に、こいつらと一緒に魔王を倒す。
3人を見ながら俺は固く決意するのだった。
ようやく3ヶ月が過ぎて、決して良い顔はされなかったが俺達が皇国を訪れる許可がようやく出た。
逸る気持ちを抑えながら、皇国用の通信石も運びながらミヤコを目指す。
今回はあえて速度を抑えずに行ったので、片道7日で到着した。
流石にミヤコ近くになったら速度を落としたが、それでも十分早い。
個人的にはさっさと桔梗屋に行きたいのだが、今回は面倒くさい事に皇国のお偉いさん方に会わなければならないのだ。
以前皇国に来た時は、ジュウベエに親書を渡してもらうだけで済ませていたのだが今回はそのジュウベエが掴まらなかった。
以前に渡した通信石で連絡すると皇国の北の端辺りにいるとの事で、今回はとても間に合わないとの事だ。
実質の最高権力者である《将軍》に面会を申し込むと、3日後に会う事となった。
時間も出来たので桔梗屋を訪ねると
「……カインはん?カインはん達やないかっ!急にどないしたんや?」
と店の奥から特徴的な声の持ち主が出迎えてくれた。
「よう、久し振りだな。変わりは無いか、ヤタローさん?」
「ああ、見ての通り健康そのものや。よう来てくれた、歓迎するで」
再会を喜ぶ俺達ではあったが、ただ遊びに来た訳では無い。
ここに来た本当の目的を果たさなければ……
「ありがたいんだが、まず最初に確認させてくれ。ヤヨイさんの容態に変化は無いか?」
「……ああ。カインはんのおかげで悪うはなってない。相変わらずや」
それを聞いてほっとした。
ここに来た目的を果たす事が出来そうだ。
俺は小さく深呼吸をした後、ヤタローに話しかけた。
「ヤヨイさんの病を治しに来た。会わせてくれ」




