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第140話 再会の約束

帝国編はこれで最後となります。ギリギリになってしまい、すいませんでした。


苦労の末ようやく術式が完成し一安心したところで、【概念】の修行の方も順調に進んでいた。

流石に《クラウ・ソラス》のメンバーは、始めたのが遅かった分だけ習得にも時間が掛かったが、カレン達4人は俺が合格の基準としていた上の下レベルは問題なく使える様になった。

これは上手く4人が競い合いながらも、お互いに助け合ったからだ。


そして《クラウ・ソラス》のメンバーで意外だったのは、ヴィルさんが一番習得に苦労しているという事だった。

というのも【概念】は常識から外れた思考が必要になるので、知識豊富でこの中で一番の常識人であるヴィルさんにはそういう部分が難しいようだ。

同じ理由でカールさんも苦戦しているが、セシリアさんとシグはそういう意味では【概念】が合ったのか、習得が早かった。


一応念の為シャル、セシリアさん、シグの3人にカールさんとヴィルさんを相手に指導させたのだが、セシリアさんは文句なし、シャルは及第点だったがシグだけは話にならなかった。

教え方が感覚的で、具体的にどうすればいいのかを指示出来ず、挙句の果てに何故出来ないのかと怒り出す始末だった。

結果セシリアさんとシャルを中心に《クラウ・ソラス》の【概念】の指導を任せる事となり、一件落着となった。


術式も完成し【概念】の指導も目処が立った事で、俺達が帰国する事が決まった。

帰国は俺達が帝国に来て丁度2月半になる日に決まり、残り1週間となっていた。

それからは《クラウ・ソラス》と共に帝都の施設を回ったり、公式に歓迎の意味を込めた大規模な晩餐会などが開かれたりと、目の回るような忙しさだった。


そんな中でも俺達は何とか時間を作り、お世話になった宿屋のおばちゃんや食堂の爺さん、冒険者ギルドのアッバースやファティマにお礼とお別れを伝えに行った。

おばちゃんは涙を流して別れを惜しみ、爺さんは相変わらずぶっきらぼうだったが店を出る際に保存の利く食べ物を強引に渡してきた。

アッバース達とは結構長く話をして、最後は握手でお別れをした。


そうしている内に帰国前日になった。

最後の日は予定も無く、のんびりと過ごすようにとのシグの計らいだった。

どうしようかと考えていたら、シャルが俺の部屋を訪ねてきた。

理由を聞くと、シグが今日1日は俺達と一緒にいるように命じたらしい。


「……私は別にいいって言ったんだけど、お兄様がどうしてもって……」


視線を逸らしながらそう言うシャルに


「それじゃ頼めるか?最後の日くらいは、親しい人間だけで過ごしたいしな」


そう言ってやると、満更でもない顔で了承してくれた。


シャルを加えて5人になったところで、何かしたい事があるか聞いてみた。

しかしカレン達は普段通りでいいと言うし、シャルは自分が決める訳にはいかないと断った。

そこで俺にお鉢が回ってきたので、少し考えて出かける事にした。


少し歩いて目的地に到着した。

玄関をノックしたら


「……はーい、少しお待ち下さーい」


と、以前より元気の無い声が返ってきた。

扉が開き、出迎えてくれた彼女は驚いた表情を見せた。


「……何でお兄ちゃん達が……明日帰っちゃうから忙しいって聞いてたのに」


「準備は終わってるから今日は暇なんだよ。クレアは今日は予定があるかい?」


「……ううん、今日はずっと家にいるつもりだったけど……」


「それじゃお邪魔してもいいかな?最後の日はクレア達と過ごそうと思うんだ」


その言葉を聞いたクレアは、俺に抱きついてきて泣き始めた。

そんなクレアを俺は泣き止むまで、優しく頭を撫で続けるのだった。


しばらくして泣き止んだクレアに案内されて、家の中に入ってゆく。

俺達の会話が聞こえていたみたいで、ヴィルさん達は暖かく出迎えてくれた。

こうして俺達の最後の日は、ヴィルさんのお宅で穏やかに過ごさせて貰った。

外に出ると大騒ぎになりかねないのでずっと家の中だったが、それでも俺達は最後の時間を別れの寂しさじゃ無く、楽しい思い出として過ごしたのだった。


クレアがはしゃぎ過ぎて眠ってしまい、ついにお開きとなった。

明日、最後に見送りをする事になってるから、別れの挨拶はその時だ。

ヴィルさん達にまた明日と告げ、最後の夜はこうして終わった。



翌朝、俺達は多くの民衆に見送られながら、帝都の門まで移動した。

皆が手を振りながら、別れを惜しみ、また来てくれと言ってくれていたのが、本当に嬉しかった。

そして《クラウ・ソラス》とクレアは門の外まで一緒に来てくれた。

とうとう本当に別れの時だ。


「それじゃあね、カイン君。あの術式ならきっと大丈夫だから、君の願いが叶うといいね」


「カイン君、私達も貴方の家族なんだから、いつでも帰ってきなさいよ?」


「……お兄ちゃん。私のお兄ちゃんになってくれてありがとう。ずうっと待ってるから絶対絶対また会おうね」


「……カイン、本音をいえばお前には残って欲しかった。しかし今のお前にはお前を必要とする仲間がいるのだな。こちらは心配ない。お前も頑張れ」


「……まあ、近い内にまた会う事になるであろう。それまではくたばるなよ。余はともかく貴様が死ねば悲しむ連中ばかりだからな」


シグまで挨拶を済ませ、残るはシャルだけだ。

しかし待っていても、シャルは俯いたままで話しかけてくる事はない。

仕方なく俺からシャルに話しかける。


「シャル、ありがとうな。お前が色々世話してくれたおかげで、楽しく過ごせた。【概念】の練習はサボらなければお前なら使いこなせるはずだ。頑張れよ」


「……やだ。行っちゃいやだよ。カイン……」


顔を上げたシャルの目には涙が浮かんでいた。

そして俺の胸に飛び込み、抱きついてきた。


「……ねえ、残ってよ。せっかく会えたのに、またお別れなんて嫌だよ……」


シャルが本心で言ってくれているのが解る。

しかし俺は


「……ごめんな、シャル。まだやらなきゃいけない事が残ってるんだ。また会いに来るから、泣かないでくれよ。……7年前はお別れを言えなかったから、今度こそちゃんと約束して別れたいんだ」


「……約束って、何?」


「絶対にまた会いに来る。俺の大切な人達に、また会いに帰ってくるから……」


そういって、シャルを優しく抱きしめる。

しばらくそのままでいると、シャルの俺を抱きしめる力が弱まり


「……うん、待ってる。だから、絶対に帰ってきてね……」


俺にだけ聞こえる声でそう言ってくれた。



こうして俺達は帝国を出発して、帰国の途へとついたのであった。

ちなみに3人には最後のシャルとのやり取りが、大変気に食わなかったらしく俺が話しかけても、しばらく一切口を利いてくれなかった。

本来1月中に終わらせるつもりが思いっきり長引きました。

解っちゃいましたが、自分は書くのはともかく削る方は本当に下手くそです。

実際読み返してみれば何話か削っても良かったし、1話の中でも言葉を削ってもっとスリムに出来たなとは思います。

どうしても書く方に必死で削る余裕が無いのでしょう。

改善したいとは思っていますが、本作中は難しいかもしれません。

とりあえず次の投稿は15日頃を予定しています。

エピソードを回収するので10話以内に収めるつもりです。

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