第134話 力無き者の苦しみを
自分のミスで1月31日の23時に、2月1日分を投稿しています。
もしご覧になっていなければ、先に133話をお読みください。
「これで最後だっ!!……よし、向こうに合流するぞっ!!」
中位魔族を倒し終えた俺達は、そのまま上位魔族との戦闘に加わる。
サブナックを《クラウ・ソラス》が、ヴィネを俺達が担当する。
「ちっ、調子に乗ってんじゃねーぞっ!!テメーら虫けらは、虫けららしく俺様に叩き潰されてろってんだ!!」
「……群れればワタシに勝てるとでも思ったの?全く、これだから人間って奴は。お前達との間にある、絶対的な種族の壁って奴を教えてあげるわぁ」
どうやらありがたいことに、連携する気は無いようだ。
まあ向こうからしたら、人間相手に連携するなど屈辱でしかないだろう。
せっかくあちらさんが自ら隙を作ってくれたのだから、こっちは遠慮なくその驕りの代償を支払わせてやるまでだ。
シグと目配せをして、お互いが遠慮無く動ける様に距離をとる。
さて、さっきまでのカレン達の戦いを見て、大体の敵の特徴は掴んだ。
まずは3人に【念話】を付け作戦を伝える。
『カレン、相手が巨大な【酸】を出したら、それを風で相手に押し返せ』
『……先生?それが成功しても自分で出した【酸】なら効かないのでは?』
『ああ、その可能性が高いからそれを逆手にとる』
俺はそれぞれの役割と作戦の概要を伝え
『これはタイミングが命だ。その瞬間を見逃さず一気に決めるぞ』
『『『はいっ!!!』』』
その時が来るまでは、全員で魔術による遠距離戦を行う。
流石に2人から4人に増えた攻撃では、ヴィネも容易に攻撃に移れない。
更に俺は魔弾による手数重視の攻撃、カレンは雷による狙いすました一撃、ルミラは炎で逃げ道を潰し、フィリアは定期的に【酸】を消しつつ絶妙な間で相手の妨害もこなしていた。
隙の無い攻撃にヴィネがイラついているのが解る。
俺達は攻撃を、通常の魔術並みに威力を抑えているからたとえ直撃したとしても、大したダメージにはならない。
しかしそう思って強引に行こうとした瞬間、威力を上げた攻撃を数発混ぜて相手の思い通りにさせない。
「っ!!ああぁぁぁ!!鬱陶しいっ!!!そんな攻撃何発当てても、ワタシを倒す事なんて出来る訳ねえだろーがっっっ!!!!」
とうとうキレたヴィネが、自分の前に巨大な【酸】の玉を生み出した。
よし、遂にきた。
俺は全員に合図を出し、勝負に出る。
ヴィネに【酸】の玉を避けた攻撃が当たるが、意に介さない。
そしてヴィネの身長の3倍程の巨大な【酸】の蛇を作り上げる。
そしてその中に自ら飛び込むと、蛇の首が9つに増えた。
「……これでおしまいよ。この【九首の大蛇】は貴方達を溶かしつくすまで消える事は無い。ワタシに本気を出させた事を誇りながら、死になさいっ!!」
ヴィネを取り込んだ【九首の大蛇】が俺達に向け【酸】を吐いてくる。
9つの首から放たれる攻撃は、これまでとは比べものにならない程大量の【酸】を撒き散らしてくる。
……予定変更だな。あれはカレン1人じゃ抑えられない。
俺も加わり押し留めた後、フィリアにも加勢して、とそう考えていたら
『大丈夫です、先生。私が1人で抑えてみせます。何時までも先生に守られている訳にはいきませんっ!!』
そうカレンが強い口調で言ってきた。
俺を見るその目には、強い覚悟が見て取れた。
『……解った、お前に任せる。ルミラもフィリアも予定よりかなり大きいが作戦に変更は無い。各自気合で何とかしろ。……頼んだぞ、お前達』
『『『はい、任せて下さいっ!!!』』』
さあ、作戦開始だ。
地面を腐食させながら、【九首の大蛇】がこちらに突っ込んでくる。
カレンがその突進を止める為、風の魔術を放とうとする。
(【突風】じゃ駄目だ。もっともっと強い風じゃないと止められない。1つじゃ足りない。2つ、いや3つだっ!!!)
そしてカレンが魔術を放つ。
「いっけえええぇぇぇぇ!!!【暴風】っ!!!!!」
【突風】の数倍の勢いの風が【九首の大蛇】を襲う。
正面からの風に加え、左右の斜め上から吹き降ろしの風を生み出す。
しかしその【暴風】を受けても、【九首の大蛇】は前進を止めない。
じりじりとではあるが、確実に間合いを詰めてくる。
しかしこれ以上風を吹かせる隙間が無い。
(あれだけ先生に見得を切ったんだ。出来ませんでしたなんて言うもんかっ!!)
「これでどうだあああぁぁぁぁ!!!!!」
【暴風】がこちらから向こう側に吹き抜ける形から、上から下にその場で回転する様に変化していく。
カレンが【概念】で吹き抜けるという要素を、その場に留まると独自解釈した結果だ。
一方的な吹き抜けでは限界だったが、回転するなら速度を上げれば威力も増す。
ようやく【九首の大蛇】が足を止め、そこにフィリアが【聖属性】を付与する。
更に全く同時に俺が、【伝播】と【粘着】を付与し【聖属性】が【九首の大蛇】に一気に広がり、ヴィネの身体がまるで【酸】に焼かれたようになる。
「ぐああああぁぁぁぁ!!!熱い!熱い!!ワタシの身体がああぁぁぁ!!!」
俺の付与した【粘着』のせいでヴィネの身体には【聖属性】化した【酸】が纏わりついていた。
ヴィネが暴れるがその周りには半球状の結界が、ルミラの手によって張られている。
ヴィネがぶつかった場所が薄くなるが、すぐに元の厚さに戻る。
あれは【パワーウォール】の一定以上のダメージで壊れるという要素を、【概念】で魔力を注ぐ限り再生すると独自解釈したからだ。
「嫌だっ!!死にたくないっ、許してくれっ!!もう人間は殺さないからっ!!」
のた打ち回りながら、ヴィネが命乞いをし始めた。
「……お前はここの村人達の命乞いを聞いたのか?その【酸】で多くの力無き者を殺したんだろう?自業自得だ、自分が与えてきた苦しみをたっぷりと味わえ」
「嫌だっ!嫌だっ!!嫌だあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
……そのままヴィネは自分がそうした様に、溶けてその核だけを残し消滅した。




