第132話 上位魔族との遭遇
まずは村から一番近い砦に向かい、そこから村へ向かう。
砦の兵士達は、先日の報告からのあまりに早い対応に驚いていた。
村の場所を確認し、兵士は連れずに俺達だけで村に向かった。
村には俺達の馬車で半日程で到着したが、そこはもう村とは呼べない有様だった。
人気は一切無く、村中の建物は破壊し尽くされていた。
処理はされているが、血の跡であろう場所が随所に見られた。
そして泉のほとりにある今は傷つきボロボロになっているが、かつては立派な大木であっただろうその近くに、土を掘り返した跡の上に大きな石が置いてあった。
亡くなった人があまりにも多く、1人1人埋葬する事が出来なかったのだろう。
これだけの事を生き残った村人1人で出来る訳がないので、砦の兵士に頼み込んで行って貰った事は想像に難くない。
……村人全てを埋葬しなければならなかった、生存者の気持ちを思うと胸が痛む。
その絶望感や虚無感は、かつて俺が味わったものと同じものだ。
そうしている内に、村を探索していたカレン達が帰ってきた。
「……酷いですね。何でこんな事が出来るんですか……」
「……見れば解ります。明らかにこれを行った相手は、殺す事を楽しんでいる」
「……兵士でもないただの村人を、一方的にいたぶっています。……どんな事情があろうと、私はとても許せそうにありません」
3人は悔しそうな口調でそう話し、怒りを押し殺している。
そこに《クラウ・ソラス》のメンバーも帰ってきた。
「……駄目だね。魔力の残滓は消えてしまっている。手掛かりは無さそうだよ」
「……せめて魂だけでも導いてあげなきゃ。後で【鎮魂】を行うから手伝ってね、フィリア」
「……戦士としての誇りも無いのだな、この連中には……」
「……許せないわ。この人達の無念は私達で晴らしてあげなきゃ……」
《クラウ・ソラス》のメンバーも同じ様な表情をしている中、シグ1人だけが微笑を浮かべて無言のままでいた。
カレン達には解らないだろうが、あれはシグが本気でキレた時の表情だ。
その証拠に俺が
「シグ、これからどうするんだ?」
と聞くと
「……決まっておるだろう。これをやった連中に報復するまでよ。帝国の民はその全てが帝国の財産であり余の所有物だ。余のものに手を出しておいてただで済むと思われては、余の沽券に関わるのでな」
と殺る気満々だ。
しかしそうなると、その連中をどうやって探すかだな。
魔力の残滓でもあれば俺かヴィルさんが【探索】出来たのだが、流石に10日以上経っていたら残ってはいなかった様だ。
そいつ等を特定出来なければ、後は効率が悪いが全方位に向けて無差別に探知する様に魔術を放つしかない。
ただ、それをすると見つかった時に魔力をかなり消耗した状態で戦う事になる。
さてどうするかと悩んでいたら、俺がこの村に入る前に張っていた結界に、何かが引っ掛かった。
どうやら向こうさんから来てくれたらしい。
全員にその事を伝え、シグの指示の下俺が先制の魔弾を放つ事になった。
感知できた気配は7つ。
その中で明らかな上位魔族は2体で他は中位魔族の様だ。
その内の最も弱い個体に狙いを定め、挨拶代わりに【神速】【自動追尾】【強固】【貫通】を付与して魔弾を放った。
まだどちらからも姿は確認出来ないが、結界に触れた時点で識別は出来ている。
俺の放った魔弾が魔族の頭を撃ち抜き、絶命させる。
あえて【認識阻害】は使わなかったので、向こうも攻撃が来た方向は解るだろう。
俺は攻撃の成功と残りの魔族の構成を伝え、連中が来るのを待った。
逃げる可能性もあったが、その為にあえて弱い奴を狙い撃ちした。
なにしろ魔族が明らかに、人間の魔術で攻撃され殺されたのだ。
例えるならば、人間が猫に襲われて殺された様なものだ。
屈辱的であり、力に絶対の自信がある上位魔族ならあれで釣れると確信している。
そして数分後、俺達の頭上には6人の魔族がいる。
その中で粗野な雰囲気の男の魔族と、妖艶な雰囲気の女の魔族の2人が、他の魔族と比べ明らかに実力が飛び抜けていた。
俺達を見下すようにしている魔族に、シグが宣戦布告する。
「……この村を襲ったのは貴様等だな?その罪、死を以て贖え」
その言葉に
「あははっ、ねえ聞いた?サブナック。地を這う虫けらが何か喚いてるわよ」
「……うるせえぞ、ヴィネ。どうせまた同じ様に殺すんだから威勢が良い方が俺様達が楽しめるってもんだろうが」
「そうね、あの娘達なんて良い声で鳴いてくれそうだし、楽しみだわぁ」
と、上位魔族の2人は余裕の表情だ。
…やれやれ、虫けらときたか。
まあそれなら、お前達にも地面を這いずり回って貰うとしよう。
俺は【隠蔽】しておいた魔弾に【飛行禁止】を付与して連中に撃ち込む。
先程までの余裕の表情が、驚愕に変わる。
いきなり飛べなくなった魔族達は、なす術なく地面に墜ちていった。
どうせあの程度じゃ、大した傷も負っていないだろう。
……何よりその程度でくたばられたら、こっちの腹の虫が治まらない。
無残に殺された村人達の苦しみを、その身をもって理解してもらうぞ。
さあ、戦闘開始だ。




