第131話 急遽冒険へ
謁見と昼食会が終わり、俺は指導と術式解析の毎日を過ごしていた。
基本的には朝から夕方まで4人に【概念】の指導を行い、その後ヴィルさんの家にお邪魔して、寝る前まで術式の解析と構築を進めていた。
ヴィルさんには大変申し訳無いのだが、4人の指導に結構時間が掛かりそうだから解析をヴィルさんが、構築を俺が担当する事となった。
と言っても、俺の術式構築は絵で言えばまだ下書きの段階で、大まかに魔力が術式にどう流れてどういう効果を発揮するかを考え組んでいる最中だ。
これを形にするには、術式に正しく魔力が流れるか、矛盾は生じていないか、強度は足りているか、求められる効果が現れるか、制御は可能か、などと解決すべき点は山ほどあり、組んでは改善を繰り返しようやく完成に至るという代物だ。
そして現在俺が組んでいる術式だが、はっきりいって話にならない。
ヴィルさんの解析待ちではあるが、それでも構築すべき術式が複雑すぎるのだ。
そもそも原因を取り除いただけで変質が元に戻るのか、それとも進行が止まるだけなのかが解っていない。
となると念の為、変質の原因を取り除く、変質を元に戻すという禁呪クラスの術式を2つ構築する必要があり、正直先が見えていない。
(……それでもやらないとな。少々強引でも純魔力ならきっと補えるはずだ)
完全な術式を完成させるには、最低でも10年は必要だろう。
しかし俺が求めているのは、不完全でも成功さえすれば良いものだ。
例え完成したとしても魂への干渉は禁呪扱いだから、これが公表される事はない。
たった1度の使いきり、俺にはそれで十分なのだ。
それから1月程が経った。
術式の解析は宣言通り2週間程で終わり、現在は俺が仮組みした術式に解析された魂へ干渉する術式を組み込み、理論上問題ないかを検証中だ。
もちろん1度で成功するほど甘くないので、これからは構築、検証、修正を延々と繰り返す事となるだろう。
ヴィルさんも加わってくれているので、作業効率は格段に上がるはずだ。
そして4人の【概念】の指導だが、こちらも一定の効果が出始めた。
まずは比較的簡単に出来る【概念】を集中してやらせた。
それでも4人が成功し始めたのは、指導を始めて3週間経った頃だ。
それほど【概念】は行うのが難しく、とっかかりを掴むまでは本当に苦労する。
しかし1度成功してしまえば、後はその感覚を他にも広げていくだけなので苦労は大幅に軽減される。
まあそうはいっても今やっているのは、レベルで言えば下の中くらいだ。
目標としては、理想は上の下、最低合格ラインは中の中をクリアといった所か。
残り1ヶ月で達成出来るかはあいつ等次第だけど、余計な邪魔が入らなければ達成は可能だろう。
そしてこんな事を思った途端、邪魔が入るのもお約束だろう。
「冒険に行くぞ。早々に準備せよ」
そういって、これから訓練に向かおうとした俺達の前に現れたのは、ばっちり準備を整えたシグとカールさんだった。
後ろを見て確認すると3人はともかく、シャルでさえ首を横に振っていた。
……ああ、こりゃ完全にシグの思いつきだな。
俺もかつて経験した、この突発的な行動に頭を悩ませつつ
「……それはシャルだけか?それとも俺達にも言ってるのか?」
と確認すると、シグは極当然の様に
「貴様等も含めてに決まっているだろうが。その様な事一々確認するな」
と言ってのけやがった、この野郎。
「……あのな、俺等は一応賓客だろうが。どこの世界に賓客を冒険に引っ張り出す国があるんだよ?」
「ただの賓客なら言わんさ。貴様等だから言っておる。それに理由ならあるぞ」
シグ曰く、最近北の魔王領に近い小さな村が襲われたそうだ。
村人は1人を残して全滅、建物も無残に破壊されたとの事だ。
その生き残りも、たまたま用事があり村を離れていた為助かったと言っている。
そしてその生き残りは村の方から、空を飛ぶ魔族らしき姿を目撃したそうだ。
「大分混乱しておった様で、正確な情報かは不明だ。だが報告書を読めば村の破壊には、明らかに大規模な魔術の使用が見て取れたとの事だ」
「……空を飛んでて大規模な魔術使用が可能って時点で、中位魔族以上は確定か」
「うむ。故に余等が出向く必要がある訳だ。理解したか?」
「……ああ、解った。俺等も連れて行くって事は魔族は複数いたんだな?」
「その通りだ。中位魔族なら問題ないが、上位魔族なら貴様等を使わぬ手は無い。ついでに腕が鈍っておらぬか確認しておきたいしな」
シグは獰猛な笑みを浮かべそう話した。
本来は他国の事に俺達が関わるのはまずいのだが、魔族の事となると話は別だ。
それに、村が襲われて全滅したというのも引っかかる。
俺達はその話を了承し、共に魔族の探索、討伐に出向く事にした。
ヴィルさん達とも合流し、村の位置を聞くと帝都から8日程だそうだ。
《クラウ・ソラス》も当然の様に自前の馬車で移動するので、こちらと同じ付与を馬と馬車に付けておいた。
これなら全速力なら2日程で到着するはずだ。
こうして俺達は、魔族に襲われた村へと向かうのだった。




