第123話 次の段階
「さて、純魔力の特徴については全員解っているだろうから省くが、今のお前らは純魔力の使い手としては第1段階といったところだ」
シャルの拘束を解き、純魔力の座学を行う。
幸い4人のレベルはそう変わらないので、皆まとめても問題は無い。
「あの、先生。第1段階というとまだ何段階かあるのですか?」
「ああ、俺の基準では全部で3段階だな。第1段階が【強化】第2段階が【概念】そして第3段階が【創造】だ」
「お師様、それはどういったもので判断されているのでしょうか?」
「それぞれが出来る事のレベルでだな。今のお前らは純魔力をただの質の高い魔力としてしか使えていない。それが第1段階の【強化】だ。実際今はまだ強力な魔術を使う事しか出来ていないだろう?」
「その口ぶりですと【概念】や【創造】ではそれ以上の事が求められる訳ですね」
「ああ、まず第2段階の【概念】だがこれは通常の魔術の独自解釈だ。そうだな、実際にやってみた方が解りやすいか」
俺はやや離れた地面に向けて、独自解釈した火の魔術を放つ。
それは青白く燃え続けたまま、地面に残っている。
「シャル、あの火を消してみてくれ」
「……消せばいいのね。解ったわよ」
シャルは水の魔術で水球を作り、それをぶつけた。
「……えっ、嘘、なんで……」
シャルが驚いているのも無理は無い。
何故ならぶつけた水球は、火に当たった瞬間そのままの形で凍ったからだ。
「あれが俺が独自解釈した魔術の【凍る火】だ。見ての通り火の特徴のまま性質は氷の性質を持つ。火の持つ温度が高い、熱いといった要素を独自解釈した訳だな」
通常の魔術でもある程度の独自解釈は出来る。
例えば火球の魔術で巨大な1発を作ったり、逆に拳大の大きさで数多くしたりだ。
しかし俺が4人に求めるのは、純魔力でのみ成し得る独自解釈だ。
その概念が持つ意味を理解し内包する要素を独自解釈して、本来とは別の形で成立させる。これが第2段階の【概念】だ。
「ちょっと、カイン!何であんな事出来るのよ!!」
「火という概念が持つ要素の内、温度の部分を独自解釈したからだ。凍えるような温度でも燃えるものだという事にした訳だな」
「……訳が解らないわよ。火が燃えるのは燃焼によるものなんだから、温度が高いのは当たり前じゃない。どうして凍るような温度で成立するのよ?」
「シャルはまず、その固定観念を壊さないとな。純魔力は可能性を具現化するのに優れている。こうあるべきだという固定観念よりも、こうでも出来るだろうという独自解釈が上回れば、現象として成立させる事が出来るんだよ」
「……無茶苦茶すぎて出来る気しないんだけど、私……」
「いきなりここまでやれとは言わないさ。最初の内は何度も失敗を重ねて少しずつ慣れていくしかない。成功したら感覚も掴めるだろうからその後は比較的楽だぞ」
まあ、俺の場合はもっと手探りでやってたから時間も掛かってたけど、ある程度はやりやすいものも解っているからそこまで時間は掛からないだろう。
「それに【概念】が無理を通すものなら、【創造】は不完全ではあるけど不可能を可能にするものだ。その難易度は【概念】とは比べものにならないぞ」
流石に【創造】まで出来る様になれとは言わないが、せめて俺がこの国にいる間に【概念】がある程度出来る様にはしておきたい。
「さて、それじゃもう1度おさらいだ。まずはそれぞれ魔術の制御からだ。これが完璧に出来ない内は次には進ませないからな」
俺の言葉に4人は素直に従う。
各自魔術の制御に集中している間に、俺の方はシグに言われていた地均しを行う。
まずは切り株に【人形】を撃ち込み、ゴーレムにして移動させる。
その後地面に手をつけ【精査】【広範囲】【拡散】をまだ整備されていない方向に向けて魔力を波の形に変化させたものに乗せて放った。
地面の中に残る木の根や取り除けない巨大な石の存在を確認して、続けて俺は再び波状の魔力に【条件式】《異物として認識した物を地表に排出する》を乗せ放つ。
軽く地響きが起こり、4人の目がこちらに向けられる。
「……これって、先生の魔術だよね」
「ああ。……ほら、地面から木の根や巨大な石が出てきているぞ」
「なるほど、地均しする前に邪魔な物を取り除いたのですね」
「……ねえ、ちょっと貴女達。当たり前みたいな反応だけど、これ十分に大魔術級よね?これでその反応って貴女達感覚が麻痺してない?」
向こうで何か言ってるが気にしない。
木の根はゴーレムに回収させて、巨大な石は粉砕して土砂に混ぜておく。
最後に大きめの穴には土砂を入れて、【平面化】を地面に撃ち込む。
再び地響きがして、終わった頃には地面が平らになっていた。
ゴーレムを1箇所に集め、切り株に戻したら作業終了だ。
「よし、終わったな。……どうしたシャル?変な顔してるけど……」
「……私と貴方達との認識の違いを確認してたのよ。まあ、カインだものね。このくらいの非常識は当たり前なんでしょうね……」
「……お前、今さらっとひどい事言わなかったか?」
とりあえずこうして最初の指導を終えて、宿へと戻るのであった。




