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第121話 シャルを預かる


「ええ、もちろんよ。その代わり貴女達の方も最近のカインの話を聞かせてよね。後、私の事はシャルでいいわ。親しい人達からはそう呼ばれているの」


シャルは先程までの険悪さが嘘の様に、3人に親しげに話しかけていた。

お互い共通の敵(おれ)に対して共闘した結果、仲間意識が芽生えたのだろう。

正に俺の狙った通りの結果だ。

あの状態の4人を、誰1人優遇する事無く収めるにはあれしかなかった。


たかが、4人の俺に対する敬意が大きく減っただけじゃないか。

その程度の被害で抑えられたのは、僥倖と言ってもいいだろう。

……うん、だから悲しくなんてないぞ。辛くなんてないんだからな……


俺がそういって自分を慰めていたら


「……ふむ。まあ、貴様らしい決着ではあったな。少々面白味に欠けたのが、減点対象なので60点といったところか……」


「うるせーよっ!お前を楽しませる為にやったんじゃねーんだよ、こっちは!!」


シグが審査員気取りで俺の行動に点数をつけていたので、文句を返しておいた。

というか、あんた等誰1人として協力してくれなかったよな?

覚えてろよ、こんちくしょー!!



「さて、そろそろ本題に移るか。余らも暇ではないしな」


何故かいきなりシグが仕切って話を進めだした。

……いや、どうせ俺が進めたら4人が反発するだろうから、別にいいんだけどさ。

てか暇じゃないってんなら、さっきの騒動を収めるの協力しろよ、この野郎っ!!


「要するに貴様達の目的は、《勇者》としての表敬訪問か?」


「まあ、それが主だな。後は協力関係と役割の確認、魔族に対しての反攻の時期の調整なんかだな」


「……ふむ、それではこの場で済ます訳にもゆかぬか。王宮での謁見にせねば意味が無いな。グスタフも同席させてあやつに任せるとしよう」


「……お前は、もうちょっと国政について真面目にやった方がいいと思うぞ」


じゃ無いと、グスタフさん以下官僚が不満爆発させるか過労で死ぬと思う。

……まあ、グスタフさんが不満を爆発させてる姿は想像出来ないけど、過労の方は本気で有り得る話だ。

正直、グスタフさんの代わりを務められる人材がそうそういるとは思えない。

そのくらいこの国において、グスタフさんは替えが利かない存在だからな。


「まあ、それとは全く別の話になるんだけどヴィルさん、後でちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」


「ああ、構わないよ。私に出来る事があれば言ってくれ」


「ありがとう。それじゃ後でお願いするよ。それと……なあ、シグ?シャルを少し俺に預けないか?」


「……それはどういう意味だ?一体何をするつもりだ、貴様?」


「別に変な事する訳じゃねーよ。シャルの奴純魔力が使えるだろ。だからその辺の教育をうちの3人と一緒にやるだけだよ」


「……こちらにはヴィルがいるのだぞ。教育が足りていないとは思わぬな」


「甘い。基本的な事ならヴィルさんで大丈夫だ。でも応用的なものは実際に使っている俺以上に教えられる人間は存在しない。俺がこの国にいる間だけで構わない、頼めないか?」


シグは少し考えた素振りを見せ、シャルに意思を確認した。


「シャル、お前はどうしたい?余は悪くない話だと思うがな」


「……はい。私もそう思います、お兄様。確かにカイン以上に純魔力の扱いに精通した人間はいません。得られるものは大きいでしょう」


「……ふむ、解った。ならば世話役も兼ねてこの国に滞在する間、そやつらの相手を務めよ。カイン以外には無礼の無い様にな」


「はい、お兄様。必ずお役目を果たしてみせます」


こうして、シャルを預かる事が決定した。

それに伴い近々謁見が執り行われる事となり、その際に来賓扱いで王宮に移る事となった。


さてそれじゃあ、まずは実力の確認からか。


「シャルの実力を確認したいんだけど、どっか空いてる演習場とかあるか?」


「……ふむ、そうだな。帝都の西の端に開発途中の森がある。確認のついでにそこを地均(じなら)ししておくなら構わんぞ」


「……解った。手間賃がわりでやっとくよ」


そうと決まればさっさと向かおう。

ヴィルさんには明日家に行く事を伝え、シャルと3人を連れて森に向かった。

そこは現在森を切り開いている最中で、近くには切り倒された木々や大量の土砂、そして幾つもの切り株が見て取れた。


「さて、それじゃ始めるか。シャル、まずはお前の実力が見たい。俺は攻撃しないから全力で攻撃してくれ」


「……待ちなさいよ。カイン、貴方私を馬鹿にしてるの?」


「そんな訳無いだろ。まずは妨害無しでのお前の全力が見たいんだよ。心配しなくてもその後模擬戦もやるから安心しろ」


「……解ったわよ。そういう事なら遠慮なく全力でいくわよ」


そういって細身の《魔剣》を構える。

シグの《魔剣》グラム程では無いがなかなかの逸品のようだ。

戦闘スタイルは、シグやカレンの様な武術も魔術もいける万能型だな。


「はあああぁぁぁぁ!!!」


気合の入った掛け声と共に、シャルが俺に斬りかかってきた。




その後しばらくして


「納得がいかないわっ!!もう1度、もう1度勝負よっ!!」


「……別に勝ち負けじゃなくて、実力を見る為だって言っただろ?」


「それでもよっ!!こんな屈辱的な負け方をして引き下がれる訳無いでしょ!!」


ちなみに今シャルは、俺の出した魔力糸に縛られて地面に転がっている状態だ。

模擬戦の結果がこうなった事に対し、非常にご不満なようだな。


う~ん、実力的には及第点だけどやや力押しの傾向が強いな。

多分シグの影響なんだろうが、シグの戦い方はまず真似出来ないからな。

純魔力に関しては、幸い3人と大差は無さそうだ。

これならまとめて教えても問題ないだろう。


「ちょっとカイン!!貴方、人の話を聞きなさいよ~~~~~っ!!」


青く晴れた帝都の空に、そんなシャルの叫びが遠くこだまするのだった。

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