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第115話 王宮での再会


宿に帰る頃には、もうすぐ日が暮れようとしていた。

1度部屋に帰った後、皆で食事に向かった。

俺を先頭に街の中心からやや外れた場所を目指して歩く。


(……最後に行ったのが7年前だけど、潰れてなきゃいいけどな)


微妙に不安になりながらも目的地に到着すると、そこには7年前と変わらず寂れた1軒の食堂があった。


「……まだやってたか。意外にしぶといな、あの爺さん」


扉を開けて店に入ると、中には数人の客と奥に店主の爺さんがいた。

爺さんは俺の姿を横目で見たが、何も言わず料理を続けていた。

空いている席に適当に座って、メニューを手に取り3人に渡す。


「好きな物を頼んでいいぞ。ここはあんまり高くないからな」


「いえ、先生。私達じゃ帝国の料理は判りませんよ?」

「……メニューを読んでもどんな料理か想像出来ませんね」

「ここは、導師様のオススメの料理を選んで頂きたいですね」


「……解った。口に合わなくても文句言うなよ」


俺は爺さんのところに行って適当に注文した。

その間、爺さんは特に喋ることなく


「あいよ」


と、短く返事をしただけだった。


少し待っていると、爺さんが出来上がった料理を俺達のテーブルまで持ってきた。

料理はそれぞれに野菜と肉のスープと黒パン、焼いた豚肉に付け合せはジャガイモを細く切って揚げたものに、酢に漬けた千切りのキャベツだ。

更に注文していないはずの、林檎を使ったケーキまで付いてきた。


「……なあ、爺さん。このケーキは……」


「ふん、久し振りに店に来たからな。お前じゃなく嬢ちゃん達へのサービスだ」


無愛想なままニコリともせず、奥に引っ込んでゆく。

愛想は無いけどああみえて、意外にサービスは良い爺さんなのだ。

料理の味も昔と変わらず、素朴で懐かしい味だ。

3人の評価も上々で、特に林檎のケーキはお気に召したようだった。


その日はそのまま宿に戻り、明日王宮へ向かう事を告げ就寝した。



翌朝全員が起床したところで、今後の予定を確認した。


「今日はこれから王宮の向かい、皇帝への面会の許可を取りに行く」


「あの、昨日冒険者ギルドで帝都にいらっしゃらない事を確認したのでは……」


「面会の許可はまた別だ。いきなり訪ねても会えないから予約を取るんだよ」


「ですが、《クラウ・ソラス》に会うのであればそれで用件は済むのでは?」


「公式に皇帝と王国の使者が会った事実が重要なんだよ。特にアイツとの口約束は絶対に信用するな。良く言えば(したた)か、悪く言えば我儘な奴だからな」


「……何と言いますか、とても扱い難い方のようですね」


「……そうだな。実際関わらずに済むなら、俺は一生関わりたくないな」


まあ会えば解るし、逆に会わなければ理解するのは難しいだろう。



3人を引き連れ、まずは朝食を求めて屋台に向かう。

そこでパンにソーセージを挟んだものを買って、飲み物と合わせ朝食を済ませる。

もはや屋台で食べ物を買う事に、何の抵抗も持っていない様子の貴族令嬢達だが、意外なほどの高評価を与えているのだからこのお手軽料理も侮れない。


実際、気候と風土の関係から帝国の主食は麦ではなくジャガイモと肉だ。

しかしその2つに関しては、かなり多彩な料理や加工食品が存在する。

肉自体も家畜の品種改良も進み、帝国の肉といえば他国では高級品とされている。

もちろん皇帝が食す様な最高級品ともなると、その希少性も相まってとんでもない価格で取引されるシロモノだ。


だからこそあの野郎は


『この様なものを余が食すと思うな。……全く、そんな事も解らぬとはな』


などとぬかして、用意した食事をひっくり返したことがあった。

それに対して以前飢えて死にそうになった経験を持つ俺が、食べ物を粗末にするなと大喧嘩して他の3人から、2人仲良く説教と食事抜きの刑を食らった事もある。


嫌な事を思い出して、不機嫌になりつつあった気持ちを落ち着け王宮に向かう。

程なく王宮に着いた俺達は、王国からの使者であることを告げ面会を申し入れた。

当然不在を告げられたので、宿泊している宿を説明し連絡を待つ事になった。

まあ、早くても4日後でないと会う事は出来ないだろう。


ここで粘っても仕方ないので、帰りに観光がてら街を回ろうと思っていたら


「……あのっ、申し訳ありません。少々お待ち頂けないでしょうか?」


と、衛兵の1人が走って俺達を呼び止めに来た。

話を聞くと俺の名前を聞いた上司が、呼び止める様指示を出したとの事だ。

衛兵に案内されるまま、応接室の1室に案内されそこで待たされる事となった。

侍女がお茶を出して、しばらく待っていると


「お待たせしました。急に呼び止めてしまい申し訳ありませんでした」


と、入ってくるなり頭を下げる見覚えのある人物がそこにいた。

俺はその相手に対し


「いえ、構いませんよ。相変わらず苦労してそうですね、グスタフさん」


「いえ、陛下をお支えするのが私の仕事ですので……」


と、お互いにこやかに再会を喜び合うのだった。

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