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第113話 久し振りの帝国


その後訓練を重ねつつ、帝国へ向かう準備を整えた。

そしてルミラも無事及第点に達したので、予定通りに帝国に向かう事となった。

しかし、その前日俺は自宅で


「……あ~、行きたくねー。全然その気になれねー」


と、出発前なのだが全くもって俺のやる気に火が点かないでいた。


……いや、俺も分かってはいるのだ。

ここでごねた所で、帝国に向かわざるを得ないという事は。

だが、頭で分かっていても心が嫌がっているのも事実だ。

結局愚痴でも吐いて、逃げられないという事実を受け入れるしかない。


「……はあ、しょうがない。もう1度忘れ物が無いか確認するか」


俺はのろのろと動きながら、特に土産を重点的に確認しておくのだった。



翌日、これまでと変わらず馬車で帝国に向かう。

道中何事も無いまま関所に到着し、帝国へはすんなりと入る事が出来た。

ここから約5日掛けて、《帝都アルクトゥルス》を目指す。

本来は10日は掛かるし目立つのも良くないが、どうせ遅かれ早かればれる事だ。


こうなったら覚悟を決めて、さっさと済ませた方がまだマシだ。

少々やけくそ気味である事を自覚しつつも、帝都に向けて馬車を走らせた。



無事に5日後には帝都に到着し、顔馴染みの宿屋へと向かった。

約7年ぶりに帝都に来たが、ここは相変わらず昔のままだ。

宿に入り受付を済ませようとしたら、恰幅の良い女性が俺を見て驚いた顔をした。


「……アンタ、カインじゃないか!随分と久し振りだけど元気にしてたかい?」


「ああ、久し振りおばちゃん。……急にいなくなって悪かったね」


「……いいんだよ、もう昔の事だ。アンタにも事情はあったろうし、こうしてまた顔を出してくれたんだからそれでいいじゃないか?」


おばちゃんは少し涙ぐみつつも、笑顔で俺の肩をバンバン叩いてくる。

結構痛いがおばちゃんの愛情だと思えば、我慢するほかないだろう。

すると、おばちゃんは俺の後ろの3人に気づいて


「……なんだい、可愛い子ばっかりじゃないか。アンタもやるねえ」


と、下世話そうに笑いかけてきた。

……ああ、こういう所も変わって無いな、このおばちゃん。

昔もよく俺に対して、良い人はいないのかだとか、すっごく良い娘がいるんだけど紹介してあげるよだとか、それはもう嬉々として恋愛(こういう)話に首を突っ込んできた。


「……そういうのじゃないよ、あの3人は俺の弟子みたいなものだって」


「そうなのかい?でも本当に可愛い子ばっかりだねえ」


「……いいから、おばちゃん。それより部屋空いてる?」


「ああ、4人部屋でいいかい?」


「……1人部屋と3人部屋で頼むよ」


疲れながらも部屋を取り、おばちゃんに部屋まで案内してもらう。

部屋に荷物を置いた後、今後の予定を相談する為に3人の部屋を訪ねた。


「次は冒険者ギルドに行って《クラウ・ソラス》の動向を掴む」


「あの、先生?王宮には向かわないんですか?」


「……普通ならそうなんだけど、あそこのリーダーはちょっと普通じゃないんだ」


「えっ、でも《クラウ・ソラス》のリーダーってこの国の皇帝ですよね?」


「……少なくとも、俺がいた時は1年の半分も王宮にはいなかったぞ」


「あの、導師様?疑問なのですが、それでこの国は本当に大丈夫なのですか?」


「皇帝が好き勝手したいが為に官僚が凄く優秀だからな、この国は……」


俺の中では我儘といえば、この国の皇帝が頭に浮かぶぐらいの超絶自己中だ。

俺が馬車の御者が出来る様になったきっかけもアイツが俺に


『余がその様な真似をする必要が何処にある?貴様がやればいいだろう』


などと言って、一触即発になりかけた所を他の仲間が必死に宥めた結果だった。

渋々俺が折れたが、アイツの思いつきと無駄に高い行動力には苦労させられた。

……今思えば、他のメンバーって凄く心が広かったのだと心底思う。

まあ、継承順位は低いけど前皇帝の嫡子だから態度がでかいのは仕方ないのだが、非常に残念な事に実力が伴っているのが性質が悪い。


あれで口ばっかり達者なら被害は王宮内で済んだのだが、英雄級の実力があったが為にお目付け役兼護衛役にあの3人が選ばれて、不幸にも出会ってしまった俺まで巻き込まれるという事態になってしまったのだ。

その後結婚して子供も生まれたそうだが、あの性格は一生変わらないだろ。


「だから、王宮にも行くけど先に冒険者ギルドで《クラウ・ソラス》が何処にいるか確認した方が早いんだ。パーティー登録してる以上何処に行くかは冒険者ギルドに報告する義務があるからな」


仮にアイツが思いつきで行動しても、他のメンバーが報告しているはずだ。

どこかに行っていれば、数週間無駄になる可能性もある

だったら王宮にいればよし、いなければこちらから出向いていけばいい。

ここのギルドマスターとは面識もあるし、事情を話せば協力してくれるだろう。


こうして俺達は、帝国の冒険者ギルドに足を運ぶのであった。

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