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雨と虹と  作者: 青枝沙苗


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6話 憧れと相談

 文化祭終了後、優也は再び入院した。だが、テスト一週間前からは一時退院し、テスト終了までは登校するのだ。その間、彼の登下校は母親が迎えるのだという。優子はその話を昼休みに美術室で聞いていた。


「文化祭の日のこと、ごめん。俺の母さんやけに過保護でさ、あれはやるなこれはダメだって、母さんの言う通りにすればいいからって言うんだ。俺がこんな体だからだと思うけど……」


 別にいいけど、と優子は頭をかく。そういえば優也の母親の話は聞いたが、他の家族はどう思っているのだろう。


「あんたのお父さんはどうなの?」


「父さんは、そんな母さんに頭が上がらないんだけど、俺がやりたい事をやらせてくれるんだ。絵を描くのだって、母さんは最初反対していて、父さんがスケッチブックとかを買ってくれたから妥協したんだ」


「絵ぐらいいいじゃんね。まさか手を動かすのも心臓の負担とか言ってんじゃないよね?」


 その言葉に優也は苦笑いをした。そのまさか、だというのだ。あまりにも過保護すぎて、優子から大きなため息が漏れ出る。と同時に、腹の底から怒りが湧いてきた。


「ばっかじゃねーの! あんた、そんな母親に反発したことないわけ!? 窮屈だよ、そんなの! やりたい事もやれない、母親の言う通りにしてるだけで病気が良くなると思ってんの!?」


「そりゃ、狭い世界で退屈だしうざいって思うことあるけど、母さんなりに……俺のこと考えてくれてるみたいでさ、何も言えなくなるんだよね」


 中学校の頃の授業で、成長すると反抗期を迎えると学んだ事がある優子は今でも反抗期だが、優也は一度も反抗することのない、親の目線からするといい子のようだ。それが信じられない優子は、優也に何も言うまいと思った。いい子ちゃんに自分の気持ちは分かってくれないのだろう。


「雨内さんは、お母さんに反発した事あるの?」


 澄んだ瞳で聞いてくる優也に、優子は答えづらい。しかし、言ってもいい気もする。


「……あるよ。毎日だけどね。なんか知らないけど苛っとしてさ、言われることいちいち煩いんだよね。アタシの好きにさせてほしいし、ほっといてって感じ。髪染めた時だってどうしたのその髪って言われたけど、うざかったなー」


「いいなあ、そんな風に言えて。俺の家はかかあ天下だから、父さんと二人で母さんのご機嫌取りしてるようなもんだよ。俺も雨内さんみたくスパッと思ったこと言えたらどんなにスッキリするだろうね」


「言えばいいじゃん。もやもやしてんならさ、思いっきりあのババア! って」


 笑う優子に、優也はいつか自分も優子みたく自由になりたいと思う。とはいえ、彼女の本質は真面目なのだろう。なんやかんやで絵をきっちり仕上げようとして、クラスでは嫌われつつも宿題や授業は真面目に受けていて成績は悪くない。髪を染めてピアスをお開けているには、ちょっとした息抜きのつもりなのだろう。

 そんな彼女が羨ましいく思える。


「俺、いつか雨内さんみたくなりたいな」


「ならないほうがいいよ。クラスの連中に嫌われるから」


 その後、優子と優也は、テストが終わるまで昼休みになる度に美術室で共に勉強しつつ絵を描いていた。



 ***



 そして迎えた冬休み。優也から優子に送った一通のメール。


『冬休み、ずっと入院することになったよ。母さんが張り付いてるから、なかなかメール送れないかも』


 これを読んだごろごろとベッドに寝ている優子は「あのババア、大人のくせにやってる事は子供のコアラかよ」と呟いた。さらにはこう書いてある。


『だから、もし病院に来るなら夕方来てね。母さんにバレないように』


 以前は来るなと言ったのに、今回は来るならと言う。心細いのだろうか、それとも単純に優子に会いたいのだろうか。冬は寒くて行くのが面倒くさい優子だが、一回ぐらいは会いに行こうと思う。そのためには優也の協力が必要だ。


『そんなにへばりついてんのなら、今月は無理だね。アタシ嫌われてるし。年明けにしよう。あのバ……あんたのお母さんが相手なんだから』


 このメールを受け取った優也は、ババアと打ってあえて消さなかった優子の表情を想像し、くすっと笑った。病室にいる彼は窓から雨の降ってる外を眺め、優子に名前を教えた日の事を思い出す。絵がきっかけで彼女と仲良くなり、文化祭で彼女をモデルにしたぬいぐるみの絵を描いた。ドナーが見つからなかったら、もう一枚、大きな絵を描きたい。彼はそう思っていた。そんな時、一人の男性が病室に入ってきた。


「優也、調子はどうだい?」


「あ、父さん! 今日は割といいよ。雨で外には出られないけど、冬休みの宿題しながら絵描いて暇つぶしてるんだ」


「そうか、それは良かった。友達は遊びに来てくれてるかい?」


「母さんがいるから……」


 友達は選べと煩く言う母親だと分かっている優也の父は、気まずそうに納得した。その母親は今、夕食の準備のために自宅へ戻っている。忙しい父親は、この日は会社を早退して優也に会いに来たのだ。早退しなければ、面会時間が過ぎてしまう。


「それなら、お前の彼女も来れないな」


「だから彼女じゃないって。雨内さんは……ただの友達だよ」


 父親には優子の事を素直に話している優也。本当はただの友達だけで終わりたくないと思っている彼の本心を、父親は見抜いていた。


「ただの友達か。お前がそう言うならそれでいいさ。でもな、優也。本当にそのままでいいのか? 父さんも早くドナーが見つかってほしいと思ってるけど、最悪のことも考えているんだ。子供のお前に話すことじゃないって分かってる。それでも父さんは、ドナーが見つかって普通の生活が出来るようになっても、そうでなくても、お前には後悔しない道を選んでほしい。若い時にしか出来ないことが沢山あるからな」


「ふーん。父さんは後悔してる事あるんだ」


「もちろん、母さんとの結婚だよ」


 納得した優也は、父親と共に病室で笑った。母親は父親が帰宅するときは必ず連絡するよう口酸っぱく言っている。付き合っている頃は女性らしくて好きだったというが、結婚してから本性を現したのだという。優也が生まれてからは過保護に加えてさらにかかあ天下まっしぐらとなってしまい、家長の立場を失ったのだ。


「あれももう少し頭が柔らかくならないと、優也の嫁さんが苦労するだろうな。孫が出来たらどうなることやら」


「そんな将来のこと話してもわからないよ。ドナーが見つからなかったら、結婚も何も出来ないから。そうだ、父さん。頼みがあるんだけど――」


 冬休みのどこか一日、優子を会う時間を作るためにどうにか母親を引き離せないかと相談をした。結論はやはり厳しい。だが父親は、抜け出してでも会いに行けと言う。べったり付き添っている母親をどうにかして撒かなければならない。一番いい時期は正月近辺だろう。体調が良ければ、年末年始ぐらいは家に帰れるのだから。さすがにクラスの男友達と初詣に行くところまで付いてこないだろう。


 父親と相談した結果、優也は優子に正月のどこかで会おうと連絡した。



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