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プロローグ
「虹だぁー」
雨上がりの空。ふと見上げると浮かんでいる、七色の楕円。――虹だ。季節は二月下旬。この時期になると、二十五歳の雨内優子はある場所へ足を運ぶ。花を持って、四月には小学生になろうとする娘の優美と共に。
「ほんとだねぇ、虹綺麗だねぇ」
「おうちの虹の方が綺麗だよ」
「昨日優美が描いた絵の事かな?」
「玄関の絵」
実家で暮らしている優子の家の玄関には、スケッチブックに描かれた虹の風景画が額縁に入って飾られている。その風景画には、手を繋いだ男女二人が小さく描かれているのだ。優美はその人の絵より、虹に目が行く。
「玄関の虹の方がキラキラだよっ」
その虹の絵が好きだと、優美は笑って優子に言った。ラメなどはないが、キラキラ輝いているように子供には見えるのだろう。
優子は空の虹を見上げながら、その絵を描いた人物との事を頭に浮かべた。それは約八年前の話である。