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第一章4 『魔法使いの朝』

「朝だ。起きろ小僧」


 本のじいさんに声をかけられる。

 結局色々と考え込んでしまいあまり眠れなかったため体がダルい。

 既に俺の頭には重力に逆らって体を起こすという選択肢はなかった。


「起きろと言っておるではないか! 朝食もできておる!」


「うるせえ、幼なじみみたいなこと言ってんじゃねえ! 俺は美少女の呼び掛け以外に応じる気はない! 起きてほしいならメルナ呼んでこいメルナ!」


「様をつけろ馬鹿者! メルナ様を起こしてくるからお前は先に席についておれ!」


 そう言うとそそくさと奥の部屋に向かっていった。


「…………起きるか」


 さっきのやり取りで完全に目が覚めた。

 体を起こして洗面所で顔を洗う。


 今日から始まるのか。


 突然訪れた非日常感に少し胸を躍らせていると奥の部屋からメルナが顔を出す。長い髪は所々はねて少しだるそうな表情だった。


「おはようメルナ。眠そうだな」


「様をつけろ下僕。元気そうだな」


 適当な椅子に腰を下ろすが落ち着かない。他人の家でご飯食べるの苦手なんだよなあ。

 そんな俺を尻目にメルナが席につくとおもむろに目の前にある食器に手をつけ始める。


「お前もさっさと食え。今日は働いてもらうぞ」


 目の前には大きい皿とスープとカップが並んでいる。カップからは紅茶のような香りが漂っていた。

 俺も食べたいところだが……。


「何の肉だこれ?」


 結構大きい問題だった。皿には黒い肉のようなものに野菜が添えられていた。露骨に魔女みたくトカゲみたいなのが出てこなかっただけましだが何か分からないのは本当に怖い。


「そちらは草食竜の薫製でございます」


「草食竜!?」


 草食だしうまいのかな。でも竜って爬虫類か?一応蛇とか食べれなくもないらしいし、好き嫌いはないつもりだが……。

 俺の様子を見かねてメルナが声をかけてくる。


「竜は食べたことがないか?」


「いや、食べたことないというか……」


 いないし。


「嫌なら無理に食べろとは言わん。ワタシが食べよう」


 少し思案するがすぐに結論を出す。


「いや、食べるよ」


 これから変なもの食わされることもあるだろうしこのくらいでへこたれていられない。

 草食竜の肉を切り分け口に運ぶ。メルナは固唾を呑んで見守っている。

 そんなに見るなよ、食べにくいだろ。

 口の中に入れて咀嚼する。

 これは──


「普通に美味しいな」


 感覚としては牛肉に近いか。少し硬いが拍子抜けするほど普通だ。


「そうか、口に合うならいい。食べ終わったらすぐに準備しろ」


「そういえばどこに行くんだ? というより俺が具体的に何をするかもまだ聞いてない」


 そんな状況で契約してしまった俺は相当浅はかなんじゃないだろうか。何があっても連帯保証人にだけはならないようにしよう。


「今日は城下町に情報収集をしに行く。貴様は手伝いと雑用をさせる予定だ」


 城下町? 復讐なんて言うからいきなり敵の本拠地に潜入させられて戦わされるんだと身構えていたんだが。


「そんなに焦らなくても戦いの時には死ぬほど戦わせてやるよ」


 まあ死ねないんだけどな──と言って笑うメルナ。

 

 笑えねえよ。


「それより復讐ってなんだよ。人殺せとか言われても絶対やらないからな」


「心配せずとも戦闘における貴様の役割は基本的にワタシの護衛だ。それ以上のことをさせるつもりはない。これは契約書に書いてあった通りだ」


 本当に契約の内容を守ってくれるならいいんだけどな……。


「ワタシの目的はある指輪の破壊だ。」


 メルナが重々しく言い放つ。

 指輪? 呪われたアイテムか?


「まあそんなところだ。指輪は3つ存在しその一つは城下町にあることが分かっている」


「城下町って……そんな大雑把な範囲をどうやって探すんだよ」


「城下町にいれば指輪の能力を使ったときに具体的な位置を探知できる。お前の主な仕事はそれからだな」


「どんな指輪なんだ?」


「形は分からない。その指輪をはめた者は“影人”を操る力を手に入れることができる」


 カゲビト?


「人間の魔力が負の感情によって放出されたとき、黒い人の形をした化け物のような風貌になることがある。これが影人だ」


 人間に魔力なんかあるのか? この世界では普通なのか。


「魔力は微量だが大抵の人間が持っている。貴様とて鍛えれば簡単な魔法くらいは使えるようになろう」


「マジで!?」


 俺でも魔法が使える!? なんて素晴らしい世界なんだ。


「教えてくれよ! 魔法の使い方!」


「教えてやってもいいが、お前の働き次第だな」


「よっしゃあっ! 約束だぞ!」


 俄然やる気が湧いてきた。護衛だろうがなんだろうがやってやるぜ!


「話を戻すぞ」


 ん? ああ、影人とやらの話だったな。


「その影人とやらは強いのか?」


「普通の人間ならまず勝てないだろうが貴様の敵ではなかろう。普通にやれ」


 こいつの言う普通が俺にとっては色々普通ではないんだけどな。

 さて、とメルナは話を切る。


「所有者を殺すなり指輪を奪うなりで指輪を全て破壊することがワタシの目標となるわけだが向こうも影人を使い抵抗するだろう。ワタシは魔法でやつらを一掃できるが詠唱に時間がかかる」


「そのための護衛か」


「そうだ。貴様はワタシが魔法を放つまで時間を稼ぐことが仕事だ」


 なるほど、俺の仕事内容と目的は分かった。だがまだ聞いてないことがある。


「で? その指輪と復讐とやらに何の関係があるんだよ?」


 メルナはしばらく黙ったが冷たく一言。


「貴様が知らなくてもいいことだ」


 その言葉でこの会話は打ち切られた。


 少し邪険な空気のまま食事が終わり澄ました表情で紅茶らしきものを飲むメルナ。挙動の一つ一つが洗練されているせいか壮麗な上品さを感じる。大金持ちのお嬢様と言われても信じるだろう。

 俺の視線に気づいて紅茶らしきものを置く。


「あんまりジロジロ見るな。殺すぞ」


 ……口の悪さばっかりはどうにかならないのかな。

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