表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第一章2 『不死とエルガレシア』

 目覚めは快調だった。


「起きたか」


 俺はソファに横たわらされており、枕元にはメルナが座っていた。先ほどは帽子の陰になってよく見えなかったがなかなかかわいらしい顔をしている。口は少々悪いようだが。

 緑の瞳がじっとこちらの目を覗き込んで来るのが恥ずかしくて目をそらす。


「貴様がここまで弱いとは思わなかったぞ。よくも期待を裏切ってくれたな」


「うるせえ。俺の成長タイプは大器晩成型なんだよ」


「ふん、馬鹿を言うな」


 会話をしているうちに頭が冴えてくる。起きてもここにいるということはやっぱり夢じゃないんだな。

 ……まあそれはそれとしてだ。


「俺、あのチビにボコボコにされたのにアザひとつないんだが。もしかして魔法かなんかで治療してくれたのか?」


 ソファから体を起こして言った。

 着ていた制服の腹の部分が少し破れているが体にはほとんど後遺症がなかった。


「お前が想像するような治療はしていない。傷は……そうだな、体験してもらったほうが早いな」


 メルナは俺の右肩に手を当て──


「何が起きても騒ぐなよ」


 魔法を放った。


「え?」


 一瞬だった。

 右腕に違和感を感じ目を送ると、そこにはあるはずの右腕がなかった。


 えっ? えっ? えっ?


 突如焼けるような痛みが襲った。


「うわああああああああっ!」


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

 必死に左腕で肩を押さえつける。

 立ち上がろうとするが右半身が重さを失ったことによりバランスを崩し、体が床に叩きつけられる。


「落ち着け! 右腕をよく見ろ!」


 なんだ? 何を言っている? 右腕?

 激痛を堪えながら細目で右腕を確認する。


「嘘だ」


 ある。消滅したはずの右腕が。

 制服の右の袖は消えたままだ。

 起き上がり指を曲げて確認する。ちゃんと動く。


 ……なんだよこれ。


「なんだよこれっ!」


「不死身の肉体はお気に召さないか?」


 嘲笑するようにメルナは言う。

 なんだよ不死身って。


「戻せよっ! 元の体にっ! 戻せっ!」


 気分が悪い。突然自分の体が自分の体では無くなった感覚だ。


「それは出来ないな。貴様の肉体は戦うにはあまりに脆すぎる」


 だが──そう言い彼女は一枚の紙を出現させた。


「その契約書にサインするなら体を元に戻してやると約束しよう」


 数枚の紙が渡された。

 込み上げてくる感情を殺しつつ黙って契約書に目を通す。


 ……なるほどな。


「復讐を手伝えってか。そのために俺をここに連れてきたのか」


「誰が好き好んで貴様のような凡百を呼ぶか。貴様がここにいるのは運命なのだ」


 運命?


「召喚は術者にとって必要な人材が呼び出される。ワタシはエルガレシアにふさわしいような人間を必要としていたのだ。なのに選ばれたのはなぜだか何の力も持たない、才能もない、頭も悪いうえに大した努力もしたことがなさそうな貴様だったのだ」


 ひどい評価だった。


「そういえば本のじいさんもエルガレシアがどうたらって言っていたな。一体何なんだそれは?」


「それは私が説明致しましょう」


 本のじいさんが突然後ろから現れる。


「エルガレシアは5年に一度行われる大会の優勝者に与えられる称号のことを示します。その大会の出場者は単純な力だけでなく知力や精神力、勇気なども試されることになります。エルガレシアになった者にはそれなりの処遇を受けることができるようです」


「なんだよそれなりの処遇って」


「国政に関わることができたりある程度の願いを聞き入れてもらえたりという噂です」


 詳しくは公表されていない、とのことだ。


「で、その事と俺に任せたい仕事の復讐とやらは何の関係があるんだ?」


「それは関係ない。ワタシが強い人材を適当に召喚したくて適当に挙げた基準だ」


「お嬢様は昔、あるエルガレシアに命を救われた経験があるのです。ですからエルガレシアのような素晴らしい人材こそ召喚するに相応しいとお考えなの──」


「余計なことを言うなジジイ!」


 メルナは本のじいさんを掴んで外へ投げる。魔法の力かとんでもないスピードで飛んでいき直に見えなくなった。

 やたらと“適当に”を強調すると思ったらそういう過去があったのか。命を救われた……復讐とやらもそれに関係があるのか。


「なんとなく事情は分かったが話聞いてる限り俺じゃなくても別のやつまた召喚すればいいじゃん。わざわざ俺を不死身にする意味が感じられないんだが」


「召喚には相応のリスクがあるのだ。貴様を召喚するのにも準備に一年の時間を費やした。それにさっきも言ったように召喚は必要な人材が選ばれる。貴様のような能無しが選ばれたのにも理由があるはずなのだ」


 ひどい言われようだ。

 選ばれたって言われても俺からしたら偶然なんだけどな。


「おしゃべりはここまでだ。その契約書にサインしたのなら全ての役目が終わった暁には必ず元の体に戻してやると約束しよう。家にだって帰してやる」


「……この契約書の内容をお前が守らない可能性は?」


「お前ではなくメルナ様と呼べ。魔法使いは契約で嘘はつかない。こればっかりは信じてもらうしかないな」


 嘘を言っている感じでもなさそうだ。


「戦いと言われても俺は本当に力はないぞ」


「それに関しては心配するな。貴様には不死の力の他に強靭な肉体も与えてやった。そんじょそこらの雑魚には負けたりしない」


「何だって!?」


 そんなサービスがついていたのか! それなら異世界チート無双も夢ではないのか!

 一時はどうなるかと思ったが。神は俺を見放してはいなかった!

 突然力が湧いてきたような気がした。

 俺はかっこつけながら笑いだす。


「クックック……それを教えなければ素直に言うことを聞いたかもな」


 メルナ……お前は大きなミスを犯した。


「お前を叩きのめして不死の能力を解除させてやるぜ!」


 新生ケイ様の大冒険が今ここに始まる。待ってろよ美少女戦士! 待ってろよエルフ族! 待ってろよマスコット枠のキャラクター!

 ちょっと魔法が使えたからって最強の主人公と化した俺にかてるはずがねえ!


「食らえええええええっ! 右袖の敵いいいいいいっ!」


 俺は希望を抱きながら果敢に魔女に立ち向かっていった。

 呆れた顔でメルナが戦闘態勢に入る。


 記憶はそこで途切れている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ