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……ぇ…………ぇって……
遠くからか、どこからか知らないが、微かに人の声のようなものが聞こえてきていた。
その声は聞き覚えが無いような、ある様な。声の主を当てようと記憶を巻き戻してみたが、うーん良く分からない。思い出せない。
でも必死に何かに訴えかけているような感覚は感じ取れた。だって、私の体が揺さぶられるくらい必死に私の服の袖を引っ張って……ん?引っ張られてる?
「だから、ねぇってば!」
「え?」
先ほどまでは、水中に入っていた時のように音がこもって良く聞こえていなかった声が、今度はハッキリと聞こえてきたので、驚いて目を開ける。
「何これっまぶしっ!!」
すると、真っ暗だった視界がいきなり明るくなった。思わず反射的に目をすぼませた私に、その声の主は声をかけ、袖を引き続けた。
「ねぇ、僕の声……お姉ちゃんは聞こえているんでしょっ?」
「う、うん。声?聞こえてるよ?」
この明るさに目が慣れてきたのか、やっと白く明るい壁とカーテンが見えてきた。しかし、肝心の声の主の姿が見えない。
戸惑いながら、グイグイと引っ張り続けられている方に視線を下す。すると、やっと声の主の姿を見る事が出来た。
「ねぇ……」
赤いバンダナをつけた、クセの強く所々クルクルと跳ねさせた茶髪の男の子が……
「お姉ちゃんでもいい。お願い、お願いだから……」
……どこかで見覚えのある男の子が、大粒の涙をこぼしながら、自分の存在に気付いてもらおうと、必死に私のスカートの裾を引きながら、訴えた。
「僕を、この家から出してほしいんだ。」
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