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「ユウナ様の席は、こちらでございます。」
「あ、ありがとうございます。」
リビングに着き、指定された椅子に座る。窓ガラスから差し込む日の光で、明るくて暖かい。夏の日差しの中だというのに暑いと感じないのは、この部屋の湿度と温度が快適に過ごせるように一定に保たれているからであろう。眠気と共にあくびを噛み殺しながら、ユウナは空いている席を見る。
これからお昼ご飯の予定なのだが、まだお父さんとおじいちゃんが来ていないのだ。6時間以上なにも食べ物を入れていないお腹は「早くご飯を食べさせろ。」と言わんばかりに、小さく腹の虫の音を鳴らしている。
しかし、この家の家主であるおじいちゃんと、我が家の大黒柱であるお父さんを措いて、先に食事を始める訳にもいかないので、2人を待つことにした。
「そういえば最近、友達と遊びに行ってないけど、ちゃんと馴染めてるの?」
「……え?まあまあじゃないかな?」
退屈なのか、待つ間お母さんに学校中の様子について尋ねられたので話をしていた。
しばらくすると、お父さんとおじいちゃんが部屋に到着し、同時に椅子に座った。何があったのか分からないけど、お父さんは無表情であった。
「遅くなってすまなかったね。では、食事にしましょうか。」
品よく微笑むおじいちゃんの声を合図に、銀色のワゴンに乗せられて小前菜が運ばれてきた。
(……うん、すごい。)
運んできた人はアマネさんではなく別の女性。20代半ばくらいの……いや、なんか面戸臭くなってきたので、(今はどこかのお店にいるんだ)と頭の中で言い聞かせて何も考えない事にした。
いちいちツッコんでいたら身が持たないと気が付いたからだ。現に、初日……しかもこの家に来て1時間しかたっていないのに疲れ果てている。
何も考えないで、取りあえず目の前に出された料理を食べ始めた。
(あ、これも美味しい!)
小前菜も終わり、次に運ばれてきていた可愛らしく盛りつけられていた前菜を一口食べて思わず舌鼓を打っていると、おじいちゃんが優しく話しかけてきた。
「どうだユウナ、ちゃんと口に合っているか?」
「あっはい!……美味しいです。」
「ははは!良かった。うちのシェフが喜ぶよ。」
「そうなんですか。あはは(シェフも雇ってんだ……。)」
またもやカルチャーショックを起こして私は、思わず乾いた笑いを浮かべてしまった。そんな私に気づいていないのか、あえて気づかないふりをしてくれたのか、おじいちゃんは不快な顔を一切せず話を変えてくれた。
そのお蔭で私は、少しずつだけど警戒と言う名の緊張がほぐれてきた気がした。お金持ちの人って、何故かき難しい人、悪い人など負のイメージしかなかったのだけど、おじいちゃんと楽しくお話が出来て、そういうイメージはただの偏見だったんだと気付く事が出来た。
「ユウナ。」
食事も終わり、私が(部屋に帰ったら寝よう)と考えていると、おじいちゃんが声をかけてきた。
「おじいちゃん、何ですか?」
「どの部屋にも自由に入っていいんだからね。家にいるんだと思って、ゆっくりくつろぎなさい。」
「……はい、ありがとうございます。」
なんて返事を返せば良いのか分からなかったので、とりあえずお礼を言う。そっけない返事になっているが、私の心の中では
(あぁ、おじいちゃんなんていい人なの?)
思わず感涙をこぼしそうになりなっていた。
私の思い上がりかもしれないが、おじいちゃんは私を家族だと認めてくれたのではないか?と考えてしまった。
現在私は、今すぐおじいちゃんっ子になりそうで困っています。




