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居合いスキルで少女は無双する  作者: 冷水
第二章:鳥ノ檻
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濃霧の樹海


「迷ったね……」

「うん、方位磁石(コンパス)も役に立たない」

 深い霧の中を、二人と一匹で歩いている。

 既に視界が悪い状態で、一週間あまりも歩き続けている。


「幸い食料や日用品はあるし、足りなければ魔物を狩れば良い。至る場所で湧き水が出てるから飲み水には困らない」

「でも、気が滅入るね……。死にはしないけど、生きてないって感じ」

『ピィィィ……』

 少女の漏らす不安な声にあてられたのか、子ドラゴンも不安そうに泣き声を上げる。ミナヅキはドラゴンを抱きかかえると、少しの重さを感じながらも撫でるようにあやす。自身の不安を打ち消すように、ゆっくりと。


 二人が歩みを進めるのは『濃霧(のうむ)の樹海』という、この世界で最も危険な樹海である。

 年間を通して『霧が出ていない日は無い』と言われていて、磁気の強い岩が多くてコンパスが壊れることがある。

 視界に影響されない強い魔物が住み着いていて、少し腕が立つ程度では生きては出られない魔境(まきょう)である。


「迷ったねー」

「あはは……見事に迷ったよねー」

 一周回って、笑えるくらいには可笑しく思える。


 明るさは昼か夜が分かる程度で、雨が降りやすく濃い霧が途絶えることがない。

 聞こえる雨音をテントの中で聞きながら、想像以上に過酷な自然に苦笑(くしょう)する。


 幸いな事に、俺達にはゲームから引き継いだアイテムリストがある。大きな荷物を持たなくて良いし、テントを乾かさなくても、カビたりしない。



----

 木々の開けた場所を探して、テントの設営をする。

 この世界は意外にもテントが発達していて、便利な雨天用が売っていた。水生の魔物から剥ぎ取った皮は水を通さず、それらを繋ぎ合わせたテントは雨の日でも防水がしっかりしている。

 

 固定用の(ペグ)を岩で下敷きにし、排水用の溝を掘っていく。

 岩で下敷きにするのは、地面は泥濘(ぬかるみ)が少なく出来る限り固定できそうな場所を選んでいるが、湿った地面で動いてしまうこともある。

 テントは防水がしっかりしているが、それでも溝を掘って水が侵入しないように工夫している。

 ミナヅキも最初は全く出来なかったが、今では半分の作業を任せている。


「こっち、終わったよ」

「ありがとう。次は焚火(たきび)か」

 岩を並べて水はけを良くしつつも、即席のかまどを作っていく。風や水が入らないようにしつつも、煙の逃げ道を作るのにコツがいる。

 乾燥した薪は持ち合わせがある。

 火を起こす道具を使って、安定するまで待てば焚火の完成である。


 

----

 鍋に水を沸かしながら、魔物の肉と調味料、この世界の保存食を一緒に煮てスープを作る。野菜を入れても良いが、俺はこの『保存食』が気に入っていた。

 肉と一緒に煮ることで、良い具合に味が出るのだ。


 もう一個の鍋で、お湯を沸かしておく。

 かまどは大きめに作ったので、余った場所に魔物の肉で作った燻製(くんせい)を置いておく。

 肉を置いた石は別の場所で洗い、持ち込んでいたもの。

 平らですべすべした岩肌と、熱の通しが良かったので重宝していて、見つけた時から持ち歩いている。


「夕食できたよ」

「ありがとう」

 

 二人で暖かいスープを飲んでいると、雨音が聞こえ始める。

 木箱を机のように使い、テントの中で寒さを(しの)ぎながら夕食を取る。


 よく煮詰めた肉は柔らかく美味しかった。

 保存食と一緒に煮詰めると、スープにとろみが出て体が温まる。乾燥させた野菜と穀物を固めたもので、主食としても十分に通用するが、料理に使うと絶品だった。


「お肉だよー」

『ピイイィィ!』

 ドラゴンには燻製をご馳走する。

 ドラゴンは肉食みたいで、野菜より肉の方が喜んで食べてくれる。

 そこは生肉でも良いのだが、なんとなく調理して食べさせている。


「帰るのも、進むのも厳しいね」

 代わり映えのしない景色と言うのは、心の余裕を奪っていく。

 その上、方位磁石(コンパス)が壊れてしまい、何度か後戻りしている事があった。

 樹海と呼ばれるだけあって、文字通り海のような広さがあり、進んだ気がしないのだ。


 戻るも進むも、途中からは目算での方角で進んでいる為に、現在地が分からない。地図を購入しているが、それが正しいのかも疑わしくなってくる。


 この世界では購入した地図との差異を、書き込んだりして埋めていく。故に、初めて行く場所や遠出をする際には、少しでも精度の高い地図を購入する事が必要になる。


「カンナは落ち着いているね」

「今の状況に不満が無いからね。むしろ『冒険してる』って感じで楽しいから」

「なら、私も気にしないことにする」


 空腹が満たされれば、眠気がやってくる。

 時計もなく話す以外に娯楽もないので、自然な欲求に任せて寝る準備をする。



----

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 この世界に来てからは、既に長いことミナヅキの抱き枕にされているが、最近はこの光景にも変化が出てきた。


『ピィィ……』

 背後にはミナヅキがいて、抱きしめられている。それとは別に、子ドラゴンが寄り添ってきて、静かに寝息を立てている。


(暑い……)


 好かれるのは良い事だが、ミナヅキもドラゴンも体温が高めで、挟まれると暑苦しい。冬や肌寒い季節であれば良いが、これが夏になったら大変だと思う。


(眠れない)


 今更であるが、この体が幼女なのだと実感する事が多くなってきた。

 頭を撫でられ気持ちよく感じる他に、性欲の類が皆無になってしまったこと。

 最初の頃は、着替えの際にミナヅキの肌を見たり、寄り添って眠る度にドキドキしていた時期もあるのに。


 そんな事を考えながら、眠気がやってきて呼吸が安定してくる。

 今日も無事に終わって、安心しながら眠りに落ちる。


 そして、起きた時に引きはがすのに、苦労するのである。


----

 二人は知らない事だが『濃霧の樹海』には、一つの伝承があった。

 それは、樹海の中心には『災い』が封印されているのだと言う。

 

 言い伝えとしても劣化していて『何が封印されているか』は分っていない。

 ただ、樹海の近くにある国や集落では、親から子供に伝承されていく『御伽噺(おとぎばなし)』に近いものに、それがある。


 千年以上も昔、そこには確かに『何か』があった。

 まるで『パンドラの箱』のような、中には『災厄』が詰まっているというその場所へ、二人の少女は歩みを進めていく。


 千年が経てば、いくつもの国が生まれては、滅びていく。

 その過程で、当時の記録は消え去ってしまう。

 紙に書いても岩に刻みつけても、風化して何もかもが意味を失ってしまう。


 故に、本当は恐ろしい場所であっても、人は足を踏み入れてしまう。

 探検家や冒険家、この世界では『冒険者』のことか。

 己の命を天秤にかける粋狂(すいきょう)な者だけが、歩みを進めるのである。



----


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次の更新はいつになるか分かりません。

やっと、全体の誤字修正と推敲が終わったので、次話はしばらく先です。


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