満月が見る
月が空から落ちてきた
受止めたなら目になった
下が幾分歪んでいるのは
何処かに打つけてへこんだらしい
右の眼窩に月を嵌め
見慣れた景色が知らぬ色
花の香りに家族の円居
眠りの数と音の波
万事は光の水彩画
彼処此方の隔てなく
月光が照らす朧道
ふと満天の星を仰げば
右目が郷里を思い出す
月は夜空を乞い焦がれ
歪んだ身では飛べもせず
思いは黒く渦を巻く
脳を抉って胸を食む
いつの間にやらこの身の中は
宇宙のようにがらんどう
冷たい虚無は劫劫と
鳴るばかりで響かない
遂に空ろが皮膚を割り
乾いた塵への崩壊の時
亡き国のモザイクタイルを近く見ゆ
渇望の穴地に落ちて
何一つ叶えられぬまま
這いずり悶え
物に触れれば飲み込まずにはいられない
煮え滾る闇に地球が覆われ
ごぷりごぷりの音も止み
後には空があるばかり
誰も見ぬ月が浮くばかり