カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲
「ねえ、花奏は私の味方だよね?」
放課後、みほに話しかけれたが、何をもってそう思ったのだろうか。
「どうだと思う?」
笑顔で答えた
クラスのみんながクスクスと笑い声を立てた。
たいていの人なら、これでわかるはずでしょう。
みほは、悔しそうにうつむいた。
その姿を見て、自分はこの人よりも上だという優越感と、安心感とを覚えた。
「もっと面白くなっちゃえばいいのに」
相変わらず、理穂は楽しそうにしていて、私もいまは少しだけ彼女に共感出来る。
帰り道。
私たち六人の会話はやけに弾んだ。
そのなかのほとんどは、悪口。
よく、敵ができると人間は団結する、というけれど、本当のことだと思う。
「怒鳴られたときのみほ面白くなかった?」
「それな!」
正直、気分が良かった。
しかし、なぜだろう。
同時に全身の血管が、気味悪く脈打つのも感じた。
今日も、高台からバイオリンが聞こえる。八木さんの音だ。
今、彼が弾いているのは、『カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲』。
これは、『カヴァレリア・ルスティカーナ』というオペラの音楽だ。
このオペラは、シチリア島のある村が舞台だ。
トゥリッドゥはかつて美しい女ローラの恋人であったが、ローラは彼の兵役中に馬車屋のアルフィオと結婚してしまう。
除隊後帰郷したトゥリッドゥは、いったんはローラを忘れるべく、村娘サンタと婚約したけれど、結局は留守がちなアルフィオの目を盗んでローラと逢引を重ねる仲に戻ってしまった。
これをサンタが知ってしまう。
サンタは怒りのあまり、そのことをアルフィオに告げてしまう。
彼は激怒し復讐を誓い、サンタは事の重大な展開に後悔する。
ここで場を静めるように流れるのが、八木さんが弾いている間奏曲だ。
教会のミサが終わり、男たちはトゥリッドゥの母ルチアの酒場で乾杯する。
トゥリッドゥはアルフィオに杯を進めるが、断られる。二人は決闘を申し合わせ、アルフィオはいったん去る。
トゥリッドゥは酒に酔ったふりをしながら母に「もし自分が死んだらサンタを頼む」と歌う。
トゥリッドゥが酒場を出て行きしばらくすると「トゥリッドゥさんが殺された」という女の悲鳴が2度響き、村人の驚きの声と共に幕を閉じる。
茜色の中で聞こえる八木さんのバイオリンは、まるで小さな私の心の荒波を静めるかのように、まっすぐ響いた。