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名残惜しさのda capo



「ごめん。少し暗くなっちゃったね」

しばらくして、八木さんはそう言った。

しかも、朗らかに笑いながら。

「全く関係ないんだけどね、俺の妹、金木犀の花、好きなんだよ」

無理して笑ってるのかな、なんて思ったけど、そうではなさそう。

「妹さん、いらっしゃったんですね。なんていうお名前なんですか?」

八木さんはズボンのポケットから一枚の白黒写真を出した。

「ことぶきに、音って書いて寿音。この子だよ。七五三の時にとってもらったんだって」

着物を着た女の子を指さして、楽しそうに説明してくれる。そんな姿をみたら、いまどき珍しい白黒で印刷されていることなんて、どうでもよくなってしまった。

「これが送られてきたのは去年だからさ、今日久しぶりに家に帰って『お兄ちゃんおかえり』って言われた時は写真と違いすぎてびっくりしたよ」

「久しぶりに家に帰ったって、普段は違うところに住んでいるんですか?」

「うん。音大の近くのアパートでひとり暮らしをしているよ」

このようなテンションの返事を予想していたが、そんなのは大きく外れた。

「潜水学校の学生だったし。普段は茅ヶ崎にいないよ」

潜水学校なんて聞いたことがない。おおかた、なにかの専門学校だろう。


「とても素敵な演奏だったので、てっきりどこかの音大生かと思いました」

「本当? ありがとう!」

屈託のない微笑みに何も言えなくなった。


「月が出てきたね」

八木さんが見ている方向には、紺色の空にぽっかりと浮かぶ月がある。


名残惜しさが押し寄せてきたけれど、ぐっとこらえて帰ることにした。

あまり遅くなると母が面倒くさい。


「また明日もこられる?」

「はい。行けます。」

「じゃあまた明日、同じくらいの時間に、ここで」

そっと耳打ちをされて、鼓動がはねる。小さなふたりだけの秘密が出来たかのようで嬉しかった。




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