小さな秋
「俺は八木奏汰! よろしくな」
整った口元から白い歯がこぼれた。なんて綺麗に笑うのだろう。
「君は? なんていうの?」
出会ってすぐの時よりも幾分かくだけた口調にほっこりする。
「花奏です。藤井花奏。こちらこそよろしくお願いしますね」
握手を求められた。
恥ずかしさを必死に隠しながら握ったそれは、思っていたよりも大きくて分厚い。男の人の手だ。
「また会えますか?」
恐る恐る尋ねた。これで会えない、と言われてしまったら立ち直れないような気がする。
「うん。会えるよ」
ああ、良かった。
「でも、しばらくしたらいなくなってるかもしれないなあ」
今までと変わらない八木さんの声がした。しかし、その表情はどこか悲しそうに見えた。
私の表情が暗くなったのが分かったのかもしれない。
八木さんは、手を伸ばさなくても届くところにある花を摘むと、
「あげる」
私の手のひらに乗せた。
金木犀の花だ。
そっと顔を近付けてあと少しの秋を吸い込む。
こんなに小さくても、しっかりと香りを感じられる。
「この花も生きてたんですね」
返事は、なかった。
「えっと、すみません。ちょっとクサすぎましたね」
頭を掻く真似をしてみたけれど、やっぱり八木さんは答えない。
その代わりに、下唇を噛み締めながら、茜空をじっと見つめていて、その姿を私は上目でしか見られなかった。