嘘つきのガヴォット
教室の外のメタセコイアが風に揺れていた。葉が落ち始めたその木の向こう側の空は虚しいくらいに青い。
十月もほとんど終わりに差し掛かった火曜日のお昼すぎ。
修学旅行を二週間後に控え、学年中が浮き足立っているような気がする。
……もちろん、私も含めて。
花奏、と声をかけられてはっとした。
「あ、理穂。どうしたの?」
「ねえ、見て。今日みほちゃん化粧してる」
理穂がそう言うと、
「ほんとだ。男でもできたのかな?」
「なわけ。あれに男ができたとしたらまじギャグだわ」
私が返事をするよりも早く同じグループの子が言葉を交わす。
よくもまあ、こんなに悪口が素早く思い浮かぶものだ。
このグループは仲良しにみせかけて、実は二つに割れている。私と陽菜と優希葉の三人と、理穂が率いる三人。
ちなみに、理穂たちは誰かの悪口になると活き活きし始めるから、心の中で「悪口星人」なんていうあだ名をつけてしまった。
こんなにギスギスしているのなら一緒にいなければいいのに、と思うかもしれないが、それではダメなのだ。
悪口星人たちは、それなりの女の子と数人でつるむことによって、いわゆる「一軍系女子」というステータスが欲しいらしいから。
正直に言うと、私は逢坂理穂という人間が嫌いだ。
彼女について説明させてもらおう。
自己紹介で、好きなものはスタバのフラペチーノというが、本当は何よりも悪口と男が好き。そして嫌いなものは自分よりも目立つもの。
「一軍系男子」とはなすときは、明らかに声のトーンが変わる。
こういう女をぶりっ子と呼ぶのだろう。
ここだけの話、理穂はそこまで可愛いわけではない。
だからこそ、あの猫なで声を聞くたび、私の心の中の黒い部分が動き始め、やがて誰にも聞こえないところで叫び出す。
「ぶりっ子する前に鏡を見ろ」
と。
しかし、ここまで言っておきながら、理穂との友達ごっこをやめられないのは、怖いから。
きっと、この人を捨てたとしたら、周りからの目はがらりと変わる。
ひとりになりたくないから、私は今の関係を保つことしかできない。
たとえ、自分自身に嘘をついても。