特攻隊員の思い
翌朝、学校に行くと、やっぱりみんな御機嫌だ。
しかし、私はそれどころではない。
「みほ、今日も学校きてるよ。
あんなことしておいてよくこれるよね。
あいつの顔まじで見たくないんだけど〜。
あ、でも今日午前授業だからあんまり見なくてす……」
「ごめん、お手洗い行ってくる」
これ以上理穂の口から悪口が出るのを聞きたくなかった。
私も含めて、女の子は毎日何かに対して悪口を言う。
よく知らないけれど、たぶん男の子もそうだろう。
この世界は「悪口星人」で溢れている。
奏汰さんは、全てを投げ打ってまで私たちが生きる未来を守ろうとしてくれているのに、こんなのは、あんまりだ。
あんなに優しい人が、こんなに冷たい人たちのために死んでいってしまうの?
授業が始まっても、ずっと奏汰さんのことを考えていた。
早く放課後になって欲しいけれど、なって欲しくない。
早く会いたいけれど、会いたくない。
「藤井さん!」
四時間目の社会。西山に名前を呼ばれて勢いよく返事をする。
驚きすぎて声が裏返ったのが面白かったのか、クラスメイトに笑われた。
「教科書二二三ページの最初のコラムを読んでください」
焦ってそのページをさがすまで、教科書を開いてさえいなかった。
コラムのタイトルを見て、鼓動が早くなった。
「特攻隊員の思い」
思わず声が震える。
さらに読み進めていくうちに、呼吸のしにくさを感じた。
「……われわれの生命は講和の条件にも、その後の日本人の運命にも繋がっていますよ。
そう、民族の誇りに」
これは西田高光さんという特攻隊の方の言葉だそうだ。
この方も奏汰さんと同じようなことを言っている。
読み終わり、思わず俯いた。
茶色い机に、黒っぽいしみができる。
私は、泣いていた。
「今の藤井さんのように心を込めて読みましょうね」
西山が何か言ったけれど、それに対して何も思う気がしなかった。
ただただ、早く終わってくれと時計を見つめるのみ。